JOC理事・谷本歩実さんが見た2つの特別な五輪 ズレていく価値観…「Together」の実現に期待

[ 2022年2月22日 06:10 ]

北京五輪の閉会式(撮影・小海途 良幹)
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 新型コロナウイルス感染拡大という特殊な環境下で、わずか半年あまりの間に夏冬両五輪が開催された。日本オリンピック委員会(JOC)理事で、選手担当の本部役員として東京五輪代表選手団に同行した谷本歩実さん(40)は、2つの特別な大会をどう見たか。そして五輪の将来をどう考えるべきか、スポニチに特別寄稿した。

 北京五輪に参加された選手、役員のみなさん、本当にお疲れさまでした。短期間のうちに夏冬両五輪が開催された特別な1年で、今回の日本選手団の活躍のキーワードの一つは「相乗効果」と考えています。

 私が同行した昨夏の東京五輪、当初は異様なムードでした。世界でも有数の五輪好きと言われた日本国民が、開催そのものに違和感を覚えている。選手村に入ったアスリートの口々からは「罪悪感しかない」なんて言葉も漏れていました。これではいけない。JOCの役割として、まずは選手同士が一つになることから始めました。

 結果的に日本は史上最多のメダルを獲得し、やはり日本国民は選手を応援してくれていることも確認できました。このバトンが夏から冬へと引き継がれたんです。北京に向けたJOCのチームビルディングでは、世界各地に散っている冬季競技の選手たちをオンラインで結び、柔道の高藤選手やバスケット女子の高田選手らが経験を伝えてくれました。最も心強かったのは「自分たちは応援されている」という事実の確認だったと思います。

 メダルだけでなく「挑戦」が評価されることも、五輪の素晴らしさだと再確認しました。スノーボードビッグエア岩渕選手の縦3回転。スピードスケート高木美帆選手の5種目挑戦。ともに本人たちが完全に満足できる結果とはならなかったかもしれないけど、そのチャレンジ精神は称えられました。普遍的な物語として自分の人生に投影できる。それも、五輪の価値の一つだと思います。

 一方で、ドーピングや用具の違反などの問題が影を落とした大会でもありました。善しあしや一時の感情の問題では終わらせず、選手や関係者がなぜその問題に直面したかを考え続けていくことが大事。大舞台だからこそ注目されましたが、選手は日常の大会でさらされている問題であることも忘れないでほしいのです。

 そして、2つの大会の前後で最もクローズアップされたのは、五輪という存在そのものだと思います。夏季大会は20年東京まで選挙で決まってきましたが、24年パリからは異なる形となり、32年ブリスベンにいたっては“一本釣り”。競争の中で作られた東京の立候補ファイルと、ブリスベンのそれは全く異なると聞きました。

 開催したい都市が減少する中で、持続可能な大会のために何ができるのか。現在の五輪と、人々の価値観にズレができていることは、世界的なスポンサー企業の撤退という形になって表れてきています。華美な部分はそぎ落とされ、コロナ禍で学んだリスク管理は手厚くなる。さまざまな社会問題の解決に役立つはずの五輪が社会問題そのものになった時期を経て、IOCが新たに加えた「Together(ともに)」のモットーをどう実現していくか。これからに期待したいです。(JOC理事)

 ◇谷本 歩実(たにもと・あゆみ)1981年(昭56)8月4日生まれ、愛知県安城市出身の40歳。桜丘高―筑波大―コマツ。柔道女子63キロ級代表として04年アテネ、08年北京五輪連覇。全試合一本勝ちの連覇は男女通じて初。10年に現役を引退し、13年からはJOC在外研修制度でフランス留学。16年リオ五輪は日本女子代表コーチ。18年に国際柔道連盟殿堂入り。同年、弘前大大学院で医学博士の学位取得。東京五輪パラリンピック組織委理事、JOC理事、日本スケート連盟理事も務めている。

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