トレーナーの卵に未来を―コロナ禍で悩み相談室 桐生専属・後藤勤さんの思い

[ 2020年10月1日 12:00 ]

桐生祥秀専属・後藤勤トレーナー
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 コロナ禍はスポーツ界の危機である。選手だけではない。裏方も死活問題に直面した。

 大変なのは今だけではないかもしれない。活動休止などの空白は、きっと未来の人材難を招く。将来を憂い、この春、1人のトレーナーが立ち上がった。後藤勤さん、46歳。陸上短距離、桐生祥秀の体のケアをする専属トレーナーである。

 未来が灰色になったトレーナーの卵や学生のために、「悩み相談室」を開いた。オンラインで1時間のマンツーマン。業界の実情、お金のこと、ステップアップの方法など、学校の授業では聞けない話をした。もちろん無料で、だ。

 「コロナって、すばらしいトレーナーが育つ機会を摘んでいるかもしれないですよね。諦めそうな子の背中を押すことで、日本の歴史的瞬間を支える人間が育つかもしれない。そういう思いで、1人ずつに話をしました」

 日本人初の9秒台にかかわったトレーナーとしての使命感が、体を突き動かした。“本業”である愛知県岡崎市に構える治療院の営業終了後、プロのトレーナーを目指すような意欲あふれる参加者の質問に答えた。世間が動き出すとともに相談室は終了。これまで約20人とやりとりをした。

 大勢を相手に話すのではなく、1対1にこだわった。それには理由がある。11年東日本大震災の翌年から、毎年、宮城県石巻市でボランティア活動をしている。仮設住宅の住人をマッサージ。体をほぐしながら交わす会話で、胸に深く、鋭く突き刺ささる話を、数々聞いた。「2万人に迫る死者、行方不明者は、“2万”というようなひと塊の表現になるけど、1人1人につらい現実がある。現地には1分の1のドラマがある」。以後、1人1人と向き合うことが信条になった。

 今回のオンラインでの“1分の1のつながり”は、いつかアスリートを支える存在を生む形で花開くだろう。その選手の活躍が人の心を動かし、次のスター選手、トレーナー、スポーツを愛する人を生む。陸上・日本選手権がきょう1日に開幕する。やっぱりスポーツっていい―。そう思われる大会に、きっとなるはずだ。(倉世古 洋平)

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2020年10月1日のニュース