石川遼と裸の付き合い――お風呂で単独取材、約束の「独占告白」

[ 2020年5月24日 05:30 ]

12年三井住友VISA太平洋マスターズで2年ぶりに優勝を飾り、男泣きする石川遼
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 【忘れられない1ページ~取材ノートから~倉世古洋平記者】2012年男子プロゴルフツアー三井住友VISA太平洋マスターズ(静岡県・太平洋クラブ御殿場コース)で、石川遼(28=CASIO)が史上最年少の21歳1カ月24日でツアー通算10勝目を挙げた。11月11日の最終日は、スリル満点の展開の末に1打差逃げ切り。2年ぶりの復活Vともなった節目の優勝に、スポニチは石川にとって初めてとなる「独占告白」を原稿化した。その取材は、非常に珍しい場所で行われた。 

 後にも先にも、湯船につかりながら単独取材をしたのは、あの時だけだ。12年11月の三井住友VISA太平洋で、石川がツアー通算10勝目を挙げた。

 時代の寵児(ちょうじ)だった“ハニカミ王子”が世間に初めて出す「独占告白」を手掛けるため、優勝の余韻冷めやらぬクラブハウスの風呂にお供した。

 最終日はドラマチックだった。12番から雨。コースを彩る紅葉と雪化粧をした富士山とのコントラストがかすんでくると、単独首位で出た石川が失速した。雨の優勝経験がなく「またダメか」と弱気になり、16、17番で連続ボギー。最大4打あった同組の松村道央との差が「1」に縮まった。

 18番パー5は、当時ツアー2勝の松村が先にピン左12メートルに2オンした。石川の第2打は残り228ヤード。グリーン手前の池を避けて刻む選択肢もあったが、15歳でツアー初優勝をしたミラクル男に安全策の考えはなかった。5Wの一打はかろうじて池を越え、ピン手前6メートルに2オンした。大歓声がグリーンを包んだ。互いに2パットのバーディー。1打差逃げ切った。2年ぶりの優勝を涙で飾った。

 その前週、マイナビABC選手権の開幕前に勝つ予感があった。スイングに迷いがなく、生命線のアイアンには鋭さを感じた。当時、早朝から夕方まで石川の動きを追っていた記者の“勘”が働いた。同時に「復活優勝」と「節目の10勝」が重なるタイミングで独占告白を原稿化したいと考えた。

 当時の石川は競技の垣根を越えたスター。1年間に17社ものCMに出ていた。毎試合、10人近くの番記者がたった1人を追いかけていた。簡単ではない1対1の状況をつくり、「近々、優勝しそうだ。その時は独占告白を記事にしたい」と、声を掛けた。

 快諾してくれたのは、21歳にして高いプロ意識を持っていたからだろう。注目度の低かった男子を盛り上げるため、何も聞かれたくないような成績でも取材に応じ続けた。テレビカメラの前とそれ以外で態度が変わるタイプではない。熱心な記者を大切にした。「独占」のお願いをしたマイナビABCは6位。上向き調子で静岡へ向かい、歓喜の瞬間を迎えた。

 優勝後の石川は珍しく興奮していた。関係者に招かれ、報道陣は通常入れないロッカールームで取材を始めたが、話がかみ合わない。焦った。困り果てたところで、本人から助け舟が出た。

 「雨に濡れて寒いから、あとの話は風呂で聞いてくださいよ」

 湯煙の向こうのヒーローは、一息ついて舌が滑らかだった。2人きりで素っ裸。遠慮せず、当時の彼女で16年に結婚した奥さんのことも根掘り葉掘り聞いた。「ウイニングボールは全て彼女にプレゼントしてきた」「成績が良かろうが悪かろうが同じように接してくれる」「中学の同級生で僕の完全な一方通行で始まった恋」。明かしたことがないプライベートを盛り込んだ独占告白の反響は大きかった。

 この原稿の副題は「取材ノートから」だが、実はメモは残っていない。だが、ノートもレコーダーも持たず、のぼせそうになりながら聞いた話は、8年後の今も鮮明に覚えている。 

 《“プロのこだわり”が詰まったパー3のティーアップ》
【記者フリートーク】石川のパー3の第1打には、こだわりが詰まっている。同じ番手で距離を打ち分けるために、5つの方法でティーを使い分ける。遠くへ飛ぶ順に、(1)プラスチック製(2)木製で高く刺す(3)木製で普通に刺す(4)ティーペグを使わずに芝生を盛り上げる(5)平らな芝生の上に置く、となるそうだ。
 「それぞれ1ヤードずつ距離が変わるイメージ。完璧に打った時に1ヤードも縦の距離が狂いたくないので。計測したら本当かどうかは怖いけど」と謙遜するが、プロの感覚は恐ろしく鋭く、多分、当たっているだろう。同条件でも高さを変えるのは、「ティーが高ければ右へのミスが減り、低ければ左へのミスが出にくい」という狙いもあるという。米ツアーのシード権を失い国内に復帰した18年ごろから取り組んでいる技術。ツアーが再開すれば、ファンには石川のパー3に注目してもらいたい。ティーの使い方で、心理状態が伝わるはずだ。

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