稲垣 代表初トライで“空白地”埋めた! それでも「笑ったことないですね」

[ 2019年10月14日 05:30 ]

ラグビーW杯2019 1次リーグA組   日本28―21スコットランド ( 2019年10月13日    日産ス )

ラグビーW杯1次リーグ最終戦でスコットランドを破り、記念写真に納まる日本フィフティーン
Photo By 共同

 笑わない男はトライを取っても、満面の笑みの仲間たちに祝福されても、やっぱり笑わなかった。前半25分、波状攻撃で相手ゴールに迫ると、見事なオフロードパスの連続が、最後にプロップ稲垣につながった。あとは飛び込むだけ。トップリーグでも6シーズンで通算2トライの男が、最高の舞台で代表初トライ。日本代表の1~15番で、W杯で唯一トライ記録がなかった空白地も埋めた。

 「代表に入って7年間で初めてトライしたんですけど、皆がつないでくれて、トライするのはこういう気分なんだなと。一番いい舞台で一番いいトライをさせてもらいました」。それでも、ポーカーフェースを崩さず、「笑ったことないですね」と付け加えることも忘れなかった。

 不思議な縁が、稲垣をラグビーへと導いた。競技を始めたのは3歳上で同じ新潟工に通った兄・康弘さんが、当初入部した野球部を辞めたことにある。恵まれた体格と運動神経に目を付けたのが、同校ラグビー部の樋口猛監督。1年冬から始め、2年冬の花園には13番で出場。やがて弟の存在を知り、コーチを中学野球部のグラウンドへ偵察に行かせた。報告は「バケモノみたいな中学生がいた」だった。それがすでに1メートル80、130キロを誇った稲垣だった。

 中3夏からラグビーを始め、新潟工に入学した高1の春には、後に進学することになる関東学院大が新潟で招待試合を行った。樋口監督は稲垣を伴い、春口広監督(当時)にあいさつ。「1年生なんですよ、先生」。自慢げに紹介すると春口氏は少し距離を置き、黙って稲垣を眺めた。そして、発した言葉が「1番だな」。当初からプロップ一本で育てようと考えていた樋口監督の背中を押す一言。高校では左右のプロップを経験したが、大学進学後は左に専念。名将の先見の明は、世界に誇れる日本の1番への道筋を付けた。

 次の相手は4年前、試合終了直後に号泣した南アフリカ。最高の相手を再び倒した時、今度は涙腺も崩壊するはずだ。

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