ホッケー女子代表「さくらジャパン」 ファン層拡大へ“インスタ映え”が合言葉
2020 THE TOPICS 話題の側面
ホッケー女子日本代表がファン層拡大へ、会員制交流サイト(SNS)の活用に本腰を入れ始めた。無料で画像、動画を共有できるアプリ「インスタグラム」と手を組み、競技の認知度アップ、スポンサー増に取り組む。選手の中には既に積極的に投稿する使い手も。かつて、強化費不足から極貧合宿生活を強いられた「さくらジャパン」の合言葉は今、“インスタ映え”でノーモア暗黒時代だ。
日本ホッケー協会のインターネット活用が、守から攻へ転じた。3月14日、女子のトップ選手7人を集め、都内でインスタ講習会を開いた。フェイスブック社が手がける画像、動画を主とした会員制交流サイト(SNS)の「インスタグラム」を使って、競技の魅力を発信するためだ。
五輪関連の競技で、同アプリと手を組む団体は初めて。実現に動いた同協会の坂本幼樹事務局長は「これまではSNSでいかに炎上をしないかという教育だった。その点はできているということで、どうすれば人に注目してもらえるかを考えた」と一歩踏み込んだ狙いを明かした。
講座では短い動画の使用方法、ファンとの交流方法なども紹介された。参加した司令塔のMF永井葉月(24=ソニー)は、新たな発見とともに「やり方は間違ってなかった」と自信を深めた。
協会に先行する形で、選手にはインスタの使い手が何人かいる。世界に誇るゲームメーカーは代表トップクラスのフォロワー数約2700人。これまでの経験から「ユニホームを着ている画像の方が“いいね”が多い」と傾向を把握し、競技に絞った投稿を続ける。
スペイン、オランダでプロ経験があり、海外の表現方法も見てきた。「ホッケーの魅力を知ってもらいたい」という情熱で、日本代表FWの姉・友理(27=ソニー)とともにインスタでのファン開拓に取り組む。
かつて「さくらジャパン」といえば、貧乏集団で有名だった。04年アテネで五輪初出場を決めると、気の毒な競技環境がクローズアップされた。代表合宿はホテルではなく大学校舎の一部を間借りして寝泊まり。廃校の校舎が合宿所の時もあった。暗黒時代を知るベテランDF小野真由美(34=SOMPOケア)は「これが代表かと思った」と苦い記憶を口にした。
合宿、遠征では個人の負担金も強いられた。食事も同情を誘う献立。永井葉は「昼食のおかずがジャガイモと野菜。どうやってお米を食べるの?って時もありました」と、今だから笑えるというメニューを口にした。
16年リオデジャネイロ五輪後、東京五輪をにらむスポンサーが付いたことで代表の活動が好転。ホテルに泊まり、食事は栄養士指導の“ご飯が進むメニュー”になった。昨年度は46もの国際試合を経験。従来の年間30試合程度から激増した。
昨夏のアジア大会で初優勝し、成果も出ている。東京五輪での初メダル獲得へ、環境が整いつつあるからこそ、若手のホープでフォロワー数約2400人のFW河村元美(23=コカ・コーラ)は「競技を広めて次の五輪もいい環境でホッケーをできれば」と選手共通の思いを口にする。インスタは手軽にできるPR活動。永井葉を含め、支援者やファン拡大につながると信じて自ら動く選手は少なからずいる。
実際、今回のインスタとのタッグで好影響が出ている。坂本事務局長は「ある企業から選手を使ったSNSでの商品紹介を提案された」と明かす。インスタ側も選手の魅力を発信する動画制作に着手し始めた。今後もSNSでの情報発信が、「(スポンサー候補が)もっと支援しようということにつながるのでは」と期待を抱く。
競技の強化と同様にファン開拓に特効薬はなく、手探りが続く。東京五輪で快挙を成し遂げた時に一人でも多くの人が喜んでくれるよう、ネットを駆使した現代流の草の根運動を続ける。
《インスタとスポーツの相性はいい》インスタグラムを手がけるフェイスブックの日本法人によると、18年に実施した委託調査の結果、国内の利用者の70%が、スポーツ関連の投稿に反応をしているという。インスタとスポーツの相性はいいようだ。
同社は「インスタグラムで言えば、スポーツ選手の価値は非常に高い」と位置付ける。調査から、プライベートを含めた“舞台裏”への関心が高いという結果が出た。
東京五輪の競技の中でも、追加種目のスポーツクライミング、サーフィン、スケートボードがインスタで人気を誇る。今回、手を組んだホッケーは、それらの競技と「親和性が高いのでは」と、潜在能力に期待を寄せる。他選手との交流や、日常のカジュアルな投稿が、「(閲覧者に)親近感を持ってもらいやすく、ファンの幅も広がるのでは」と分析している。
▽ホッケー 縦91.4メートル、横55メートルのフィールドで争う。ボールの直径は7.5センチで、野球の硬球とほぼ同じ大きさ、重さ。1チーム16人でフィールドに立てるのは11人。選手交代は自由。試合は15分の4クオーター制(合計60分)。スティックは片面のみでボールをコントロールする。五輪は男子が1908年ロンドン、女子は80年モスクワから採用された。
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