西岡、夢舞台で散る…ドネアに9回TKO完敗、引退濃厚に
WBCダイヤモンド・WBO世界スーパーバンタム級王座統一戦 ●西岡利晃 9回TKO ノニト・ドネア○
(10月13日 米カリフォルニア州カーソン ホーム・デポ・センター)
西岡利晃(36=帝拳)が完全燃焼で散った。世界4階級制覇王者ノニト・ドネア(29=フィリピン)と対戦し、6回と9回に2度のダウンを奪われて9回TKOで完敗。この試合を最後に引退することが濃厚となった。4度も世界挑戦に失敗しながら、はい上がり、世界王者となった不屈の男は、過去最強の難敵を前に沈んだ。日本ボクシング史に残るビッグマッチを最後にリングを去る。
失意の中、目に涙を浮かべ、リングを降りた。「格好良かったよ」。リングサイドから見守った美帆夫人(30)にそう言われ、西岡は愛する人の肩に顔をうずめた。
昨年10月に本場ラスベガスで防衛に成功後は王座にこだわらず「強い相手と戦いたい」と最強の相手ドネアとの対戦を求め実現させた。夢の舞台は95年2月のデビュー2戦目以来2度目のKO負け。「悔しさしかない」と無念をにじませた。
「序盤は特にドネアが強いので警戒して、中盤に出ていこうかと思っていた」。ガードを上げ、パンチは出さない。超満員の会場から容赦ないブーイング。速射砲のように飛んでくるパンチを防御するのが精いっぱい。自慢の左ストレートは4階級制覇王者の顎には届かなかった。6回は左アッパーでダウン。9回は「劣勢なので行くしかなかった」と相手を追い詰めたが右のノーモーションを食らい尻もちをついた。立ち上がったものの、帝拳ジムの本田明彦会長(65)の指示で田中トレーナーがリングに入り試合が終わった。
西岡を支えたのは家族の愛だ。キャリアは18年。苦しいことばかりだった。04年3月に4度目の世界挑戦に失敗。その後の結婚が転機となった。世界戦の準備に入ると家族と離れ都内に単身赴任。その間も美帆夫人はミネストローネやミートソースなどを作り冷凍して送った。献身的サポートもあり結婚後は全勝を続けた。最近減量で痩せていく姿を見ると長女・小姫(こひめ)ちゃん(6)が泣くようになった。米国に来られなかった愛娘を喜ばすためにも勝つつもりだった。そして妻と娘の名前を刺しゅうしたシューズとトランクスでリングに立った。
美帆夫人は「世界を獲るまで時間がかかった。(アキレス腱断裂の)ケガもして大変な時期もあった。でも、こんな大きな舞台に立てて本当にうれしい。(娘には)“結果はダメだったけど姫のパパは世界で一番格好良かったよ”と伝えます」と大粒の涙を流した。
進退について西岡は「今は分からない」とだけ話したが、昨年10月に「次が最後」と公言していた本田会長は「ちょうど1試合でおしまい。引退ですよ」と明言した。
今年3月、美帆夫人の実家がある尼崎市内に一戸建てを構えた。引退後は、マイホームから通勤できる場所にジムを開くことになりそうだ。最高峰の舞台に立った男が第二の人生で目指すのは、最高峰の舞台で勝てる選手の育成だ。
◆西岡 利晃(にしおか・としあき)1976年(昭51)7月25日、兵庫県加古川市生まれの36歳。高校3年の時、JM加古川ジムからプロデビュー。00年6月にWBC世界バンタム級王者ウィラポン(タイ)に判定負け。同年9月に帝拳ジムへ移籍。08年9月のWBC世界スーパーバンタム級暫定王座決定戦でナパーポン(タイ)に判定勝ち。5度目の挑戦で初の世界王座奪取。その後、正規王者に昇格。7度の防衛に成功後ベルトを返上。日本人初の名誉王者に。1メートル68.5の左ボクサーファイター。
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