メジャーリーグ歳時記

松坂の11年~ダルビッシュの15年――トミー・ジョン手術の4年と時間差(下)

[ 2016年5月11日 05:30 ]

 トミー・ジョン手術に関しては、14年頃から、アメリカンジャーナル・オブ・スポーツメディシンなどの研究機関がより具体的で、詳細なデータを出すようになった。それによると、投手が再びメジャーのマウンドに戻った確率は90%ではなく、80%前後。1シーズンに10試合以上投げた確率となると、67%。つまり残りの33%、3人に1人はチームの戦力として定着できなかったのだ。

 データはさらに手術後何カ月で実戦に戻ったかで投手を分類し、何試合、何イニングに投げたか、防御率、奪三振率、与四球率、球速などがどう変わったかを比較して分析した。その結果、「復帰までは14カ月から16カ月が妥当」という考え方が増えてきたのである。

 今月下旬のメジャー復帰が見込まれるレンジャーズのダルビッシュは、15年3月17日に手術を受けた。球団は14カ月~14カ月半で復帰するプランを立てた。ほかにも、同じ3月に手術を受けたメッツのザック・ウィーラーは16カ月をかける予定。4月下旬に手術を受けたドジャースのブランドン・マッカーシーは7月初旬、5月中旬のレイズのアレックス・コブは7月下旬で、やはり14カ月半とみている。

 覚えているのは、松坂が14年のメッツ時代にようやく肘の状態が良くなってきたと明かしたことだ。「手術から復帰して、2年目のシーズンに良くなるといろんな人から聞きましたけど、僕の場合は3年目でした。そもそもあんなに急いで戻ることはなかった」。今のように時間をかけていれば、松坂のメジャーでのキャリアも変わっていたかもしれない。

 当時と今で、大きく異なるのはスローイングプログラムにゆっくり、じっくり取り組むことである。例えばレンジャーズは、ダルビッシュが昨オフに帰国した6週間をノースロー期間とした。健康な選手と同様、オフは肩肘を休ませた。ロッキーズは、リハビリの段階が上がるたびに、キャッチボールだけの軽い練習を1週間ずつ入れている。「時間はかかるけど、それによってエネルギーが上がって次の段階に行きやすくなる」とロ軍のキース・ダッガー・トレーナーは説明する。

 ドジャースはマッカーシーのブルペン練習で、スピードガンを使用していた。最初70マイル(約113キロ)から始めて、1週間たったら74マイル(約119キロ)、2週間たったら78マイル(約126キロ)と、段階的に上げていく。そして85マイル(約137キロ)まで来たら、間隔を置き、またそこから徐々に上げていく。「新しい靭帯は腱を8の字型に結んだ接ぎ木。少しずつ強くしていくためには、そこにかかるストレスをモニターしたかった」とセラピストのスティーブ・スミス氏。トレーナーの目に任せるのではなく、科学的にデータを取る。

 マイナー時代にトミー・ジョン手術を受け、その手法でリハビリを完了したのがド軍の若手右腕ロス・ストリップリングだ。今年4月8日、メジャーデビュー戦となったジャイアンツ戦で8回途中まで無安打投球を演じた。「最初マウンドから70マイルの真っすぐを投げるのは変な感じだった。そこまで遅く抑えるのは難しかった。逆に80マイルの日にそれに届かないと、もっと強めに投げないと、とかね」。リハビリのプログラムも4年間で大きく変わった。

 リハビリを急いだ結果、トミー・ジョン手術を2度経験したビーチーは、今年のキャンプ中、マッカーシーのリハビリを見て、こう漏らした。「自分もあんな風にやっていたら」――。(奥田秀樹通信員)

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