中村武志氏 オリックス・宇田川 8回、低め意識の阪神・森下に低め“失投” 若月の構えと逆に…

[ 2023年11月3日 05:40 ]

SMBC日本シリーズ2023第5戦   オリックス2ー6阪神 ( 2023年11月2日    甲子園 )

<神・オ>8回、森下の打席で高めに構える若月(撮影・岸 良祐) 
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 【中村武志 日本シリーズ大分析】2勝2敗のタイで迎えた第5戦は阪神が逆転勝ちし、38年ぶりの日本一へ王手をかけた。8回1死二、三塁で阪神・森下がオリックス・宇田川から放った逆転の2点三塁打。中日などで捕手として活躍した中村武志氏(56=スポニチ本紙評論家)が、森下とオリックスバッテリーによる7球の勝負を徹底分析した。

 阪神は8回、1点差として無死一、二塁。中野が送りバントを決めて1死二、三塁とした。打席には3番の森下。この試合は先発の田嶋の前に3打数ノーヒット。自分の打撃が全くできていなかった。オリックスベンチはここで宇田川を送る。

 この場面、オリックスバッテリーは三振が欲しい。初球、内角高めに抜け気味のフォークでストライクが取れた。2球目、若月は内角高めに構えたが、引っかけて直球が低めに。ボールになる。3球目も高めの直球でボールになった。ここまで3球、宇田川は意図した球を投げられていないので、リードする若月はだんだん不安になってきたと思う。

 一方の森下は最低でも内野ゴロを打ちたい。4球目、真ん中低めの直球を打って出てファウル。カウント2―2。フォークで三振を取りたい宇田川とフォークを何が何でも当てたい森下。5球目、フォークが落ちずに浮いてきた。低めを意識していた森下は少し慌ててハーフスイング気味に当てにいってファウル。6球目、真ん中低めのフォークを強振。打球は三塁線へのファウルとなった。若月はタイミングが合っていると感じたはずだ。

 私も森下の当たりを見て、もうフォークはいけないと思った。7球目、直球で勝負するなら高めで空振りを取るか内野フライを打たせたい。若月は高めに構えたが、直球が真ん中低めへ。ボール気味だったが、フォークを考えながら低めに意識があった森下は完璧に捉えた。森下とは会話を交わしたことはないが、打席に入ったときの集中力は凄い。ルーキーでこれだけ研ぎ澄まされたオーラを感じさせる選手は高橋由伸以来かもしれない。

 宇田川もショックだろうが、リードし切れなかった若月も悔いが残っただろう。頭は真っ白になり、次の大山にフォークを4連投して致命的な点を失い、試合が壊れてしまった。

 ≪ピンチで光った阪神・坂本の冷静リード≫8回に試合を決定づける2点三塁打を放った阪神の坂本。バットでも貢献しているが、接戦で冷静なリードが光っている。このシリーズを見ていると、真っすぐ中心で変化球をうまく使っている。それも体に近い方の真っすぐ。短期決戦になると相手バッテリーが長打を警戒することもあり、打者は外角寄りの球を待つ傾向にある。本人は裏をかいているつもりはないかもしれないが、結果的に打者の狙いとは違う球でうまく打ち取っている。

 0―1の6回、2死から一、三塁のピンチを迎えた。1点もやれない場面。守りのミスが失点につながるこのシリーズ。チーム全体が動揺しているように見えた。だが、坂本は冷静だった。若月に直球、フォークが外れて2ボール。ストライクが欲しいところで西純にもう1球、フォークを要求した。空振りを取ると、次もフォーク。ファウルで2―2とし、最後は外角いっぱいのスライダーで空振り三振。落ち着いたリードで危機を脱した。

 ゴンザレスに一発を食らっても内角寄りの攻めを変えない。ミーティングではいろいろな意見が出ているだろうが、坂本は内角をしつこく突くというプランを貫いている。軸がぶれない恋女房。投手陣は頼りにしている。

 ≪最悪の出来だったオリックス・山崎颯≫7回を終わって2点差。オリックスベンチは山崎颯を投入した。第2戦から4試合連続登板となる宇田川は使いたくない。山崎颯から平野佳につないで逃げ切るプラン。山崎颯が使えれば6、7戦も戦力になる。だが守りのミスでリズムが狂った。

 打ち取ったはずが、悪送球も重なりいきなり無死二塁。糸原には抑えようと力みまくって高めに浮く。フォークが抜けて直球も制球が定まらない。棒球の直球を左前に運ばれる。近本には浮いたフォークを適時打…。ベンチを外れた影響があるのかどうかも判断できないほど最悪の出来だった。使いたくない宇田川をつぎ込み逆転負け。移動日があるので第6戦の登板はできるだろうが、精神的なショックは大きいと思う。山本、宮城の強力な先発2枚は残っているが、平野佳までつなぐ中継ぎに計算が立たなくなってきた。先発をどこまで引っ張っていいのか、ベンチは難しい判断を迫られる。

 一方の阪神はラッキーボーイ的な存在として湯浅が出てきた。第4戦、第5戦の2試合でシーズンにもできなかった湯浅から岩崎への最強継投が出来上がった。打線は五分、投手陣は阪神に流れがきている。

 ≪捕手チーム最多84戦出場≫阪神の坂本は8年目の今季、自己最多で捕手ではチーム最多となる84試合に出場。8月に左前腕への死球で骨折した梅野不在の中でレギュラー捕手として18年ぶりのリーグ制覇に導いた。リードには定評があり、盗塁阻止率もリーグ3位の.355をマークした。

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