【内田雅也の追球】「不思議」ではない勝因 阪神にできつつある、僅差接戦で終盤迎えれば負けない“形”

[ 2023年5月26日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神7-4ヤクルト ( 2023年5月25日    神宮 )

10回、塩見の打球を佐藤輝が好捕し試合終了(撮影・沢田 明徳)
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 同点だったから緊迫度は低いというものの、阪神は連夜、2死無走者から決勝点を奪った。前夜は9回表2死無走者から逆転、この夜は延長10回表2死無走者から勝ち越し点をもぎ取った。

 2死から中前打で出た近本光司の二盗が効いた。中野拓夢の1ボールから2球目に走り、得点圏に進んで重圧をかけた。

 中野は申告敬遠となりシェルドン・ノイジーは右前打でつないで満塁。大山悠輔は押し出し四球で勝ち越し、佐藤輝明が満塁走者一掃の左中間二塁打で試合を決めた。

 監督・岡田彰布は昨秋の就任時から「盗塁は数やない。中身よ」と話していた。「勝敗に関係ない場面でいくら走っても意味がない。ここぞという場面で走ってくれれば」。この夜はまさに「ここぞ」の盗塁だった。

 この夜はすでに2度、盗塁死があった。6回表無死一塁でのヒットエンドラン、9回表1死一塁でのランエンドヒットで、ともに打者空振り三振と走者憤死で併殺を食っていた。流れを失ってもおかしくなかった。

 さらに1点リードの8回裏2死一、三塁で救援した加治屋蓮はボークを犯し同点を許していた。投手板上で軸足を外し、一塁へけん制を投げずに偽投。これも流れを失うミスに思えた。

 こうしたミス、失敗がありながらの「不思議の勝ち」かもしれない。

 V9巨人を支えた名参謀、牧野茂は敗因以上に勝因の分析に力を入れたという。監督・川上哲治の命令だった。「勝った時の特徴を拾い出して、選手に覚え込ませる。すると“この形になれば俺たちは負けない”と自信が出てくる」。1980年3月、労働省(現厚生労働省)広報室編集の『労働時報』にある。

 阪神も僅差接戦で終盤を迎えれば負けないという“形”ができつつある。延長戦は3勝1分けで無敗。1点差試合はリーグ最多タイの10勝(3敗)を記している。

 また、この夜の勝因を探れば、伊藤将司の好投にソロ3発の打撃、さらに明記しておきたいのは守備力である。

 6回裏1死一、二塁、中前へ抜けようかという猛ゴロを横っ跳び好捕した木浪聖也。8回裏先頭、左前に落ちる飛球を飛び込んで好捕したノイジー。ともに安打なら失点に結びついていた。最後も三塁線ゴロを逆シングルで好捕した佐藤輝の美技で象徴的に幕が下りたのだった。=敬称略=(編集委員)

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