悩みに悩んで…菊池 涙のメジャー断念

[ 2009年10月26日 06:00 ]

記者会見の途中、涙を流す花巻東高校の菊池雄星投手

 日米20球団が獲得に乗り出していた花巻東の155キロ左腕・菊池雄星投手(18)が25日、同校で記者会見し、日本の球団入りの希望を表明した。メジャー挑戦を熱望していたが、周囲の重圧や一部の批判の声などに押されて断念。会見中に笑顔はなく、最後は大粒の涙を流した。29日のドラフト会議では過去最多の8球団を超える9球団の1位指名が予想される“怪物怪腕”。夢を一時封印し、日本一の投手になることを誓った。

 輝かしい未来への第一歩を踏み出すための決意表明。しかし、菊池に笑顔はなかった。会見の最後。「悔いはないのか」との質問が飛ぶと、感情を抑えることができなかった。大粒の涙がこぼれ、目頭を押さえる。テレビカメラ12台、約100人の報道陣が集まった会見場は静まり返った。
 「きのうまで悩んだ結果なので、悔いはないです。今は日本ですべてを出し尽くし、みんなに認められる選手になりたいという気持ちでいっぱいです」。そう言って、視線を上げたが、制服姿の18歳が見せた涙がすべてを物語っていた。
 小学校の時からメジャーのマウンドに立つことが夢だった。準決勝で敗退した夏の甲子園後も「行きたいのはメジャー」と思いを口にしていた。しかし、前代未聞ともいえる日米20球団による面談を経て、菊池が出した答えは「国内」だった。「高校の時も日本一にあと一歩のところで届かなくて、もう一度日本一を狙いたい。まだ自分のレベルでは世界で通用しないと思った」。悩みに悩んだ末、夢よりも現実を選んだ。
 菊池の海外流出に、周囲の風当たりは想像以上に強かった。ある関係者は「メジャーに行けば、花巻東は日本中を敵に回す」と懸念。面談に臨んだ国内12球団は声をそろえて「まずは国内から」と訴え、学校や関係者には大リーグ行きを批判する投書が届いた。インターネット上では菊池を中傷する書き込みもあった。「このような形でメジャーに行っても応援してもらえるのか」と漏らすほど、心は傷ついた。会見での涙の理由について、流石(さすが)野球部長には「大リーグ球団への申し訳ない気持ちから」と話したという。
 当初、進路を決める上で「いかに自分が育つことができるか」と育成システムや生活環境を判断基準とする考えを示していた。しかし「(育成は日米)どちらも素晴らしい」と話し、米国生活についても「(専属)通訳や食事の面もサポートすると言っていたので、不安はなかったです」ときっぱり言った。会見では「すべての人に認められてから」という言葉を3度も使ったのが、菊池の胸の内を表していた。
 それでも最後は自分で決めた。29日のドラフトでは最大9球団の1位指名が予想されるが、12球団どこでも入団する覚悟だ。「メジャーはひとまず封印してというか、日本一の投手になってから世界に挑戦したいという気持ちです」。たった一度のプロ野球人生のスタート地点に「日本」を選択した菊池。その先には無限の可能性が広がっている。

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2009年10月26日のニュース