米国のスポーツを書くために必要なこと(1)=検索編

[ 2023年8月27日 09:00 ]

レイカーズでプレーしている八村塁と昨季ネッツに所属した渡辺雄太(AP)
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 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】米国のスポーツを最初に原稿にしたのは1985年のスーパーボウルだった。それから38年。時代もずいぶんと変わり、情報の伝達がメディアとSNSに分散化される中で多くの人が“書く”という行為に加わるようになった。一般の方と記者との間にあった情報格差は減少。ただしそれでも書いて何らかの収入を得ている人間にはそれなりのスキルやコツがある。

 なので私がやってきたことをここに書き残して自分の記者人生にピリオドを打ちたい。何か特別で他人と比べて格段に凄いことをやってきたわけではないが、年数が長かった分、業務上の“蓄え”は少しだけあるので次に続く方々に何か参考になればいいと思う。

 まず日々の作業で必須なのがネット上の検索。米国のスポーツといってもいろいろあるので、専門知識のないジャンルもある。昔は2日遅れで届く英字新聞が情報の入手先だったり、各国の大使館に電話してはその選手のことを聞いたりしていたが、今やインターネットで何でも調べられる時代。ただし原稿を書く時間を大切にしようと思えば、この検索を効率的に短時間に済ませなくてはいけない。

 たとえば私の場合、八村塁選手が所属するレイカーズの試合速報を電子版用に出稿するときには、試合前にまずレイカーズとその相手のそれまでの直接対戦成績をチェックすることから日々の作業が始まっていた。キーワードは2つのチーム名と「HEAD TO HEAD」。もしどちからのチームが対戦相手にかなりの連勝や連敗を喫しているときには、その日の原稿のどこかに書かねばならない事柄になる。

 「SEASON+LIST」は最も打ち込んだ回数の多いキーワードかもしれない。この2つにチーム名を加えれば、年度別成績がすぐにヒットする。「List」はこれ以外にも使える範囲の広い言葉で、「NBA+CAREER+POINTS(SCORING)+LIST」でNBAの通算得点上位の選手たちがすぐにわかる。

 「CONSECUTIVE」もよく使った。「連続」という意味だが、チームの過去の最多連勝や連敗などを調べるときには欠かせないキーワードだ。陸上で世界新記録が出たりすれば「PROGRESSION(進化、進歩の意)」を入力してチェック。そこに競技名を加えれば記録の変遷にたどりつける。男子100メートルなら「MEN+TRACK+100+PROGRESSION」で、手動計時10秒6から現在の9秒58までのプロセスがわかる。

 特定競技の専門ライターの方にはないだろうが、スポーツ紙にいるとたとえ八村選手や渡辺選手の試合が進行している最中であっても、NFLや大リーグの試合と同時進行になる日もある。さらに試合が一方的な展開なら簡単だが、接戦になったりするとレイカーズの勝ち想定での八村選手と負け想定での八村選手といったどちらかが必ずボツになる原稿を書いている。運の悪い日?だと、そこに有名人の訃報、はたまたサメやクマに襲われた人間の原稿が加わったりして、個人的には阿鼻叫喚の世界に陥ることもある。コロナの感染拡大、ロシアのウクライナ侵攻以降は試合の最初から最後まで見守るケースは少なく“スキ”を見ては異なるジャンルのニュースに接していた。

 私の場合、AP通信が配信する写真を必ず4枚、すべてキャプションを書いた上でそれぞれの原稿に添付。すると編集システム内で1本の原稿を書いて整えるまでのクリック回数は80回を超えている。出稿本数は1日5~8本。ポチっとキーボードを叩く回数は500回前後に達するので、面倒くさいことが苦手な人には不向きな世界かもしれない。だからこそ検索を“速攻”で終えることは自分を助けるうえでも大事なのだ。

 ちなみに米国の都市名を書くときには州名表記も必須で、間違えやすいのはカンザスシティー(カンザス州ではなくミズーリ州)、ピンとこないのはシカゴ(イリノイ州)、デトロイト(ミシガン州)、ボストン(マサチューセッツ州)あたりか…。州都にいたってはニューヨーク州がオルバニー、カリフォルニア州がサクラメント、テキサス州がオースティン、フロリダ州がタラハシーなど、日本人にはあまりなじみのない都市がズラリと並ぶので、検索時間節約のためにはまず地図帳と日頃から“にらめっこ”しておくことが必要かもしれない。

 各選手の故障歴を調べることも多い。そこでは選手名に「INJURY」と「HISTORY」というキーワードを入力。現在のケガの状態を知りたければこれに「UPDATES」を加えればいいかもしれない。ただしひんぱんに発生する故障の名前と個所の日本語は覚えておいた方がいい。英語のまま記事化することはできないからだ。

 バスケの選手の場合、圧倒的に多いのはACL(前十字じん帯損傷)とMCL(内側側副じん帯損傷」の2つ。CONCUSSION(脳振とう)やDISLOCATION(脱臼)もよく出てくるし、FIFTH・METATARSAL・FRACTURE(第5中足骨骨折)は長期離脱する選手の“診断名”としてはACLやMCLと並んで多数派に属している。

 NBAではここ数年、選手のサラリーが急騰。契約内容を調べることも多く、そこでは「CONTRACT(契約)」や「EXTENSION(延長)」などを用いている。誰がそのシーズンの最高サラリーを得ている選手なのかを知りたい人もいるだろう。今季ならば「NBA+HIGHEST+SALARY(あるいはPAID)+2023」でその選手が出てくるので試してみてほしい。「RANKING」を加えると高額サラリーを受け取っている選手の序列もわかるので興味のある人はぜひ。

 さて検索がうまくできても、米国のスポーツを日本語化するにはまだ別の問題が残っている。

 それが長さ、重さ、気温などの単位の違い。あすはそこをどう処理していたのかを述べてみたい。(続く)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には7年連続で出場。還暦だった2018年の東京マラソンは5時間35分で完走。

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