アーチェリーの「ギリギリガール」山内梓 パリ五輪こそメダル射止める まずは31日開幕世界選手権

[ 2023年7月13日 09:00 ]

目標を記した色紙を手に笑顔でポーズを決める山内梓(撮影・後藤 大輝)
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 アーチェリーの世界選手権が31日にドイツ・ベルリンで開幕する。日本代表は男女6人が出場。メンバー選考会を女子1位で通過した山内梓(24=近大職)は不完全燃焼に終わった東京五輪から約2年がたち、少しずつ成長を続けてきた。大会前に本紙の単独インタビューに応じ、今後の目標やパリ五輪でのメダル獲得へ向けた抱負も語った。(取材・構成 西海 康平)

 奈良県生駒市にある近大の施設で、山内は一心不乱に矢を打ち続けている。1週間のうち、オフは月曜日のみ。それ以外の日は練習や試合に明け暮れる。午前9時から始まる練習は、1時間の休憩を挟んで午後6、7時まで。1日に400本から500本、ひたすら弓を引く。

 「近畿大学の職員として、競技に集中させてもらっています。日々、気づくことがあるし、成長できている実感もある。試合は長く体力も必要なので、毎日練習ができているのはプラスです」

 2年前の悔しさがあるから、常に前を向ける。東京五輪の選考会では、何度もボーダーラインすれすれで突破し、付いた愛称が「ギリギリガール」。運と実力を併せ持ち、代表3枠に滑り込み「シンデレラガール」とも呼ばれた。

 ただ、大舞台は甘くなかった。団体戦では5位入賞を果たしたが、個人戦は17位、混合団体は9位。自国開催という地の利を生かせず、目標には届かなかった。「メダルを獲得したい気持ちが強かったので…。結果を残すことができなくて、凄く悔しい思いをした」。大会後、打ち方などが崩れて苦しい時間も長かったが、昨年11月に行われたナショナルチーム等選考会で復調の兆しを見せ、今回の世界選手権代表入りにつなげた。

 「五輪が終わって1年間ぐらいは成績も伸び悩んで“どうしようかな”と落ち込む時期もあったけど…。コーチや監督さんが“ゆっくりでいいから、次の目標を見つけてやっていこう”と指導してくれた。東京五輪の悔しい気持ちも忘れていなかったので、諦めずにやってこられた」

 元々、オリンピアンとはかけ離れた存在だった。小学校では金管バンド部に所属し、トランペットを吹いていた。中学は卓球部で3年間を過ごし「最高成績は県ベスト32ぐらい…」。浜松商に入学し、部活見学でアーチェリー部の先輩たちが打っているのを見て「楽しそうだな」と思い、友達と入部を決めた。

 最初は弓だけを引く「素引き」すら思うようにいかなかった。だが、仲の良かった同級生らと高め合い、高校3年のインターハイで団体優勝。卒業後は接客業に就職するつもりだったものの、声をかけてくれていたアーチェリーの強豪・近大への進学を決意した。

 入学後はレベルの高さに圧倒されながら、とにかく必死に食らいついた。「誰よりも残って、居残り練習をして、授業前後もギリギリまで打って…。がむしゃらにやっていた」。大学2年から頭角を現し、急成長を遂げて東京五輪に出場。そこでの苦い経験が、また山内を強くした。

 「あの大きな舞台で悔しい思いができたことは、次につながるために良かったと思う。目の前にあるのは、世界選手権とアジア大会。そこで五輪の出場枠を必ず獲って、パリ五輪でメダルを獲るのが目標」

 正真正銘の実力を備えた24歳。世界選手権を経て、今度こそ悲願の勲章を射止める。

 <山内 梓(やまうち・あずさ)>☆生年月日とサイズ 1998年(平10)9月11日生まれ、静岡県出身の24歳。1メートル60。

 ☆競技歴 浜松商でアーチェリーを始める。競技歴は浅いが、シドニー五輪金メダリストの近大・金清泰コーチから「体は小さいけど、風が強い中でポンポン思い切って打っていた」と評価を受けスカウトされる。

 ☆家族 両親と姉2人。4月に行われた世界選手権の選考会を1位で突破したとき、両親がケーキを持ってお祝いに来てくれた。

 ☆実績 浜松商3年時に全国高校総体の団体戦で優勝。近大3年時に全国学生個人選手権で優勝。21年3月の東京五輪最終選考会で3位。

 ☆生活 大学時代は寮生活で、卒業後に1人暮らしを始める。自炊をして積極的に野菜を食べるようにしているが「トマトはあんまり好きじゃないんです…」。

 ▽アーチェリー五輪代表への道 日本から男女それぞれ最大3人がパリ五輪に出場できる。今回の世界選手権の団体で3位以内に入れば、出場した3選手がそのまま個人、混合も含めた五輪代表に決まる。その後のアジア大会やアジア選手権でも決まらなかった場合、24年に国内の選考会が開かれ、選ばれた選手が世界アーチェリー連盟が開くパリ五輪最終選考会に出場する。

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