途絶えかけた名馬の血を守ったココロノアイ 子どもに託したG1制覇の夢

[ 2019年8月6日 12:15 ]

ココロノアイ(右)と父・ロードカナロアの当歳牡馬
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 貴重な名牝の血を後世につなぐ、大切な務めを担っている。14年にアルテミスS、15年にチューリップ賞を制したココロノアイは、2年前の春から生まれ故郷である北海道・浦河の酒井牧場で繁殖生活を送っている。初子と2番子はともにロードカナロア産駒。1歳の牝馬は東京サラブレッドクラブの募集馬としてラインナップされた。当歳の牡馬は来年のセールに上場予定。代表の酒井一馬さん(43)は二世への大きな期待を口にする。

 「ココロノアイは生産馬として久しぶりにクラシックに乗ってくれました。もしかしたら勝てるかも、という希望も持たせてくれました。子どもたちも、何とか母ぐらい活躍してくれれば…。夢はG1ですね」

 ココロノアイの曾祖母は87年の牝馬2冠を制したマックスビューティ。オールドファンには懐かしい名前だろう。産駒は初子のマックスジョリー(父リアルシャダイ)が桜花賞とオークスでともに3着に健闘。欧州に渡って現地のトップサイアーとも交配し、オープン特別を2勝したチョウカイライジン(父ダンシングブレーヴ)、5勝を挙げたアーサーズフェイム(父カーリアン)など8頭の産駒を残した。ただ、牝馬はジョリーの1頭だけ。前代表の酒井公平さん(74)は「日本にはない血統の(後継の)牝馬を残したくて、サドラーズウェルズやカーリアンと交配したんですけどね」と苦笑いを浮かべて述懐する。何より惜しまれるのは一人娘のジョリーが、父デインヒルの初子を出産する際に子宮動脈の破裂で早世したことだ。

 「子どもを見たか見てないかというところでバタッと…。1頭残してくれたことが不幸中の幸いでした」

 この牝馬は後にビューティソングと名付けられ、ココロノアイの母となった。「ビューティが1頭だけ牝馬を生み、その子が1頭だけ生んだ馬がまた牝馬で。つないできましたね」という言葉には実感がこもる。

 実はココロノアイは牧場の名義でレースを走った。売らなかったのではない。生まれた時に脚が曲がっていたため売り物にならなかったのだ。アルテミスSでは折り合いを欠きながら、そしてチューリップ賞では雨に打たれながら、勝利をもぎ取った。途絶えかけた名牝の血から、平成の最後になって登場した根性娘。令和を迎え、母としてG1馬を送り出す日を心待ちにしたい。

 ≪横山典 ココロノアイと深い絆≫酒井牧場と横山典には深い絆がある。生産馬のホクトベガは引退レースの予定だった97年ドバイワールドCの4角で転倒。左前腕節部複雑骨折と診断されて、安楽死となった。手綱をとった横山典は「デットーリとかと一緒に乗りたいという自分の気持ちもあって、ドバイに行くことになったけど、ああいう結果になってしまった。それでも酒井さんは『おまえが無事で良かった』と言ってくれた」と悔しさをにじませつつ、感謝の思いを口にする。

 それから17年が経ち、アルテミスSがココロノアイで制覇。ベテランの域に達した名手がヒーローインタビューで、「酒井さんにはいろいろお世話になったんで、この馬で大きいところを獲れればいいなと思ってます」と語ったのはグッとくるシーンだった。願わくばココロノアイの子どもが、横山典の手綱でG1を勝つシーンが見たい。

 ▼酒井牧場 北海道浦河郡浦河町の競走馬生産牧場。創業は昭和15年。代表は酒井一馬氏。61年にはダービーをハクショウで勝ち、翌週のオークスをチトセホープで制する快挙を達成。その後も87年に牝馬2冠を制したマックスビューティや、ダート路線を席巻したホクトベガなど、歴史的な名馬を輩出している。主な現役馬にダイアトニックやカフジバンガード、ブラックウォーリアがいる。

 ◆ココロノアイ(牝7)2012年4月28日生まれ。父ステイゴールド、母ビューティソング。生産者は北海道浦河郡浦河町の酒井牧場。2歳時にアルテミスS、3歳時にチューリップ賞を制覇。しかし牝馬3冠では桜花賞10着、オークス7着、秋華賞14着と精彩を欠き、G1には手が届かなかった。総獲得賞金は1億1145万3000円。

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2019年8月6日のニュース