【菊花賞】虎徹の切れ味ショウナンラグーン 大久保洋師が1強を斬る

[ 2014年10月22日 05:30 ]

名牝メジロドーベルの孫ショウナンラグーン

 「第75回菊花賞」(26日、京都)へ向け、ショウナンラグーンが不気味な変身を遂げている。送り出すのは来年2月で70歳定年を迎える大久保洋吉師。76年の開業からJRA重賞通算42勝、G1・7勝を挙げた関東の名伯楽が自ら育てた名牝メジロドーベルの孫で挑む最後のクラシックだ。

【菊花賞】

 ナタの切れ味といえば64年の3冠馬シンザン、カミソリの切れ味なら60年春の2冠馬コダマ。ショウナンラグーンの切れは何に例えられるのか。菊花賞出走10度目、最後のクラシックに挑む大久保洋師が、愛弟子・吉田豊を背に馬場入りする後ろ姿へ熱い視線を注いでいる。「少し余裕を残して仕上げたセントライト記念より間違いなく動きは軽くなっている。長距離は望むところだ」。メジロ牧場自慢のステイヤー血統を受け継ぐ胴長の馬体が視界から消えると、いつもの淡々とした口調で語り始めた。

 「菊花賞は8年ぶりの出走になるのか。最初に出したのは33年前?俺も年を取るはずだ」。70歳のトレーナーは厩舎の菊花賞成績表に目を通しながら笑うが、湿っぽい話が苦手な江戸っ子気質。引退(70歳定年)が4カ月後に迫った自らの心境を口にする代わりに、ショウナンラグーンの切れ味を名刀に例えた。

 「江戸時代の刀工、長曽禰興里(ながそね・おきさと)が作った“虎徹”(こてつ)。長曽禰は五十路を迎えて、甲冑(かっちゅう)師から刀工に転じて切れ味鋭い名刀を仕上げたんだ」。刀剣の目利きでも知られる大久保洋師。虎徹の贋作(がんさく)を、さやを抜いた瞬間に見抜いたというエピソードまで伝わるが、本物の虎徹はカブトも割る斬れ味と強度を備えた最上級の大業物。古い鉄を溶かして強度を上げるその作刀法は、メジロヘンリーなど昭和時代のステイヤーの血が下支えするラグーンを想起させる。関西の刀工がもてはやされた江戸時代に関東随一と言われた評判も、強い関西勢に立ち向かうラグーンと同じだ。

 メジロドーベルの子孫として初めて重賞を制した青葉賞、最後方から6着に追い込んだダービーとも最速の上がり。出脚が鈍くて前半は後方に取り残される半面、追い出してから息の長い末脚を繰り出せる。「距離が延びればダービー上位組を逆転できるかもしれない。切れ味では負けないつもりでいる」。2歳時からドーベルと同じ馬房に入れ、一度も放牧に出すことなく手元で磨き続けた。「正念場だな」。最後のクラシックを切り開く名伯楽こん身のひと太刀。研ぎ澄ました名刀・虎徹の切れ味である。

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