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比嘉と別府 それぞれの「デビュー全勝全KO勝ち」

[ 2016年7月5日 10:30 ]

デビューから10連続KO勝利の比嘉(右)と具志堅会長

 デビューから全勝全KO勝ち。プロボクサーとして理想的で、一般の人々も強さが分かりやすい数字だ。先週、そんなパーフェクト・レコードを持つ期待の2人が後楽園ホールに登場した。

 1人は7月2日、プロデビューから10戦連続KO勝ちで東洋太平洋フライ級の新王者となった比嘉大吾(20=白井・具志堅)。強烈な左フックを軸に、ボディーからのコンビネーションで王者アーデン・ディアレ(フィリピン)を3度ダウンさせた内容は圧巻だった。ディアレは2年前の比嘉のデビュー当日、ジムの先輩・江藤光喜が壮絶なダウンの応酬の末に勝った相手で「日本にもファンが多い」(比嘉)強打の持ち主。世界挑戦経験があり、WBA・WBO世界フライ級王者エストラーダ(メキシコ)とも対戦した猛者をねじ伏せての戴冠は価値が高い。

 元WBA世界ライトフライ級王者・具志堅用高会長と同じ沖縄出身の比嘉は、昨年7月のWBC世界ユース・フライ級王座決定戦が“出世試合”だ。敵地タイへ乗り込んで14戦全勝のホープにKO勝ちし、最初のベルトを獲得した。厳しいマッチメークだったが、「海外で日本人は(タイトルを)獲れないけど、沖縄の子は獲れる」と話す具志堅会長の狙いは、あくまでも世界王者。今回も「東洋太平洋を獲らないと世界はない」と強敵に挑んだ比嘉には、連続KOは究極の目標へ向けたおまけでしかない。

 もう1人は6月30日、タイ人選手を1回KOしてプロデビューからの連続KO勝利を13試合に伸ばした東洋太平洋ウエルター級8位、日本同級7位の“九州のタイソン”別府優樹(25=久留米櫛間)。金井晶聡が持つデビューから14試合連続KOの日本記録に王手をかけ、全試合を通じた連続KOの日本記録でも浜田剛史と渡部あきのりが持つ15試合にあと2つと迫った。しかし、タイ人選手はガードもしっかりしていないレベルで、別府の強烈な右ストレートを顔面に受けて倒れると、左ボディーでもダウンしてあっさりKO。14年全日本新人王にも輝いた別府がせっかく後楽園で試合をするのだから、もう少し強い相手との試合が見たいと正直に感じた。

 それでも櫛間昭会長の方針は明確だった。「16試合までは記録をつくりにいく。その後に日本と東洋王者に挑戦状を出すか、(日本王座挑戦者決定トーナメントの)最強後楽園にエントリーします」。10月2日に地元・久留米で連続KOを14試合に伸ばし、来年1月に東京で15試合の日本タイ記録、同6月18日に久留米で16試合の新記録を狙うが、相手は全て格下の外国人選手を予定しているという。批判も覚悟の上だが、将来のために強い相手と長いラウンドを戦うことも必要ではと問われると、「長くやったから王者になれるというものではない。王者クラスとやったら別府は壊される。だから早いラウンドから倒しにいかせる」と持論を展開した。

 別府は「一番はベルトが欲しい」と話すが、櫛間会長は「たまたまKOが続いて新人王になったので、無傷でタイトル挑戦させる方針」と実力自体はまだまだと捉えている。地方ジムという環境や世界挑戦も難しい階級であることを考えると、チャンスが何度も訪れるとも思えない。だからこそ記録を優先しながら自信と実力をつけ、好機をうかがうというわけだ。

 イージーな相手を選んで連勝を重ね、無傷の選手として売り出す方針は海外でもよくある。20日にIBF世界スーパーバンタム級王座決定戦で和気慎吾(古口)と対戦するジョナタン・グスマン(ドミニカ共和国)も21戦21勝全KOながら、キャリア初期は未勝利の相手とばかり戦っている。だが、ここ2年は米国を主戦場に好戦績の相手と戦い続け、世界戦のチャンスをつかんだ。トレーナーが「驚異的なパンチ力があるから12ラウンドを戦う必要などないし、今後もない」と豪語する実力の真偽は和気戦で明らかになるが、別府の記録が本当に価値があるものと認められるかどうかは“出世試合”をどこで設け、どうクリアするかにかかっている。(中出 健太郎)

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2016年7月5日のニュース