×

井上 井岡超え6戦目最速世界戴冠 6回こん身右で王者沈めた

[ 2014年4月7日 05:30 ]

ベルトを肩に掛けガッツポーズを見せる井上

プロボクシング WBC世界ライトフライ級タイトルマッチ12回戦 井上尚弥 TKO6回2分54秒 王者アドリアン・エルナンデス

(4月6日 東京・大田区総合体育館)
 “怪物”井上尚弥(20=大橋)が王者アドリアン・エルナンデス(28=メキシコ)を6回2分54秒TKOで下し、日本人最速6戦目で世界王座を奪取した。前WBA同級王者の井岡一翔(25=井岡)の7戦目を更新。世界王座を13度防衛した具志堅用高超えを目指す天才ボクサーの伝説が幕を開けた。

 レフェリーが試合を止めると、井上のすべての感情が解き放たれた。脚の痛みすら忘れマットに突っ伏した。トレーナーの父・真吾さんや大橋会長が駆け寄る。父に抱え上げられて肩車されると歓喜の雄叫びが場内に響き渡った。新王者誕生の瞬間、スタンディングオベーションのリングサイド。そこには涙を拭う母や姉の姿もあった。

 日本最速王座奪取記録を更新した井上は「凄く楽しかった。こんな打ち合いはプロになって初めてだった。苦しい場面もあったけれど、小さい頃からの夢をかなえることができた」と喜びを爆発させた。

 4度防衛の王者を序盤は圧倒した。左ジャブを突き、距離を詰めると左右のボディー、強烈な右ストレートを上下に打ち分けた。3回には右の強打で相手の左目上をカットさせた。完璧な内容だった。だが、その回の終盤にアクシデントに見舞われた。左大腿裏がけいれんを起こした。4回以降は足を止めて打ち合わざるを得なかった。接近戦を得意とする相手の土俵での戦い。5回を終えると「足が死にそうです」とセコンドに訴えた。6回に勝負に出た。より前に出た。「肩越しから狙っていた」。こん身の右ストレートを相手のあごに食い込ませると、王者は崩れ落ちた。

 ピンチにも動じなかったのは「打ち合う 引き出しがあった」から。それは厳しい戦いの中で身につけてきた。12年7月のプロ転向時に、大橋会長と交わした約束は「負けてもいいので、強い選手だけと戦わせてください」。デビュー戦の相手はフィリピン王者、その後も4戦目で日本王者、5戦目で東洋太平洋決定戦と難関をクリアした。

 アマ時代には「地獄」を見た。1枚のロンドン五輪切符を懸けて挑んだ12年4月アジア選手権。決勝で地元カザフスタンの世界選手権銅メダリスト、ザキポフと戦った。互角の内容だったが、アウェーの戦い。11―16で失意の底に沈んだ。帰国後、自宅のリビングの壁に「紙一重。わずかな差だけど天国と地獄」と書いた紙を貼った。「(プロでは)ああいう思いはしない」。練習から徹底的に追い込んだ。試合翌日にジムに来て強制的に休養を指示されたこともある。妥協を許さぬ姿勢が「天国」へと導いた。

 プロ転向時、大橋会長は井上を売り出すため「怪物」という愛称をつけた。井上は「あまり好きではなかった」という。だが、もう誇大表現と言う人はいないだろう。試合後は具志堅用高の日本人最高13連続防衛記録突破を目標に掲げた。今後は井岡一翔とのライバル対決の期待も高まる。怪物伝説がこの日始まった。

続きを表示

この記事のフォト

2014年4月7日のニュース