東京ガス・小野田俊介 輝かしいキャリアの陰にあった多くの支えに感謝 昨季限りで現役生活に幕
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社会人野球・東京ガスの小野田俊介外野手(33)が昨季限りで現役を引退した。早実(東京)、早大を経て、右打ちの強打者としてプレー。長年にわたり攻守両面でチームを支えた。21年には「3番・中堅」として都市対抗初優勝に貢献。その輝かしいキャリアの陰には、数多くの支えがあった。
「11シーズン、プレーさせていただいて、悔いはそんなになかったですけど、寂しさというか。いいメンバー、いい後輩たちに恵まれている中、そこから離れることに対しては寂しさを感じました」
ぶれることなく、最後まで野球に対して真摯な姿勢を貫いた。入社11年目となった昨季。外野のレギュラーだった24年までとは一転、ベンチを温める機会が増えた。「時には気持ちが切れかけるときもありましたが、そういうものを見せたらチームのためにならない」。今の自分が果たすべき役割とは何か。小野田の頭に真っ先に浮かんだのは、ともに汗を流した先輩たちの姿だった。
「自分も上手くなりつつ、チームが勝つために何ができるかを常に考え続けていた。士気が下がるような行動は律していかないとダメですし、グラウンドでの移動を走ったり、挨拶もそう。それが東京ガスの良い伝統だと思います」
選手としての向上心を持ち続けた一方で、ラストイヤーは後輩たちと過ごす時間が多くなった。バッティング、守備、走塁…。質問をされれば惜しみなく技術を伝え、気になることがあれば助言もした。仮に同じポジションを争う後輩が成長すれば、自らの出場機会は奪われてしまうことになる。それでも小野田に葛藤の2文字はなかった。
「もう少し前だったら、そういう気持ちも強かったかもしれませんが…。与えられた役割を全うすることが社会人、会社員としてのマインド。実際、自分も先輩たちにそのようにしていただいたので」
大願を成就させたのは、21年の都市対抗野球大会だった。真っ先に思い浮かぶのは、準々決勝・ENEOS戦。2点を先制された直後の4回無死一塁で、スタンドに詰めかけた青色の大応援団を沸かせた。
「自分の守備のミスもあって先制されて。サインは右打ちだったのですが、関根投手のクセが分かって。次はツーシーム系が来ると。サインも頭から飛んで(笑い)、狙いにいきました」
カウント1ボールからの2球目。相手投手の癖を見抜き、球種を張った。頭に描いた通り、真ん中から内寄りに落ちて来た軌道を逃さない。完璧に捉えた一打は、左翼席へ飛び込む同点2ラン。勢いづいた打線はこの回一挙4点を奪い、1点差で難敵を退けた。Honda熊本との決勝も6―5で競り勝ち、初優勝。「一番、喜びが出たのは優勝した瞬間。甲子園とも神宮とも違うスタンドの盛り上がりに、やってきて良かったと思えました」と笑顔でうなずいた。
長い野球人生には二つの大きな転機があった。北海道旭川市の出身。旭川北稜シニアではエースを務め、シニアの日本代表にも選出された。道内をはじめ、多数の高校から勧誘を受けたが、文武両道を目指して、早実に進学。小野田は言う。
「あそこの決断が一番、大きかったとは思います」
早実には寮がなく、高校時代の3年間は3歳年上の姉・志緒里さんとの2人暮らしだった。弟の進路に合わせるように、姉は志望校を変更して早大に進学。野球と勉強に明け暮れ、疲れ切っていた弟を支えた。大学からの帰宅後は食事を作ってくれ、ユニホームの洗濯中に寝落ちした際には何も言わずに干してくれた。
「当時は僕もいっぱいいっぱいでどこか当たり前に思っている部分もありましたが、自分も結婚して子育てをしてみて、本当に大変だったろうな、と。姉も楽しみたい時期だったろうに支えてもらって、ちょっと恥ずかしいですけど、ありがとうと伝えたいですね」
姉の思いに応えるように、小野田もまた、しっかりと結果を残した。2年生ながら背番号1を背負い、選抜に出場。初戦で天理にサヨナラ勝ちすると、2回戦では富山商を下し、準々決勝まで進んだ。順風満帆に見えたが、選抜後から軽度のイップスを発症。「自分のボールを全然ストライクゾーンに投げられなくなって」。3年春までは投手の練習を続けていたが、最後の夏は「4番・右翼」として西東京大会で優勝。大勝した2回戦の中京大中京戦では試合終盤にリリーフを打診されたが、小野田は丁重に断りを入れた。
「自分が投げられなくなって、鈴木(健介)に迷惑をかけていました。最後は肩、肘も良くなかったと思う。そういう申し訳ない気持ちを持ちつつやってきた中で“甲子園で投げます”は少し違うかな、と」
最後の夏、1番をつけていたのは同学年の鈴木健介だった。ともに下級生からメンバー入り。名門・早実にあって、入学当初から素質を認められたが、周囲からの「あの2人がいれば、甲子園は何回も出られるよ」という声が時に重圧になることもあった。3年春までは同じ投手として切磋琢磨した間柄。親友でもあり、ライバルでもある存在は、その後の歩みにも大きな影響を与えた。
「いろいろなことが重なってしまって…。そこまでして、野球をやるのもどうなのかなって」
早大1年の夏だった。春の立大戦で代打としてリーグ戦デビュー。だが、環境の変化などさまざまな要因により、一時的に野球への思いが薄れ、7月に岡村猛監督(当時)に退部を申し出た。「ちょっと、待て」。岡村監督の意向もあり、一旦は休部扱い。そこから11月までの4カ月半、小野田は一度も、練習に顔を出すことなく、普通の大学生としてキャンパスライフを過ごした。そんな時、復帰するように根気強く説得してくれたのが、他ならぬ鈴木だった。
「戻って来い。もう一度、一緒に頑張ろう」
鈴木は1年生の雑務に追われる中、時間を見つけては何度も何度も、小野田のもとに足を運んでくれた。その熱意に押されるように、次第に小野田の心も野球へと傾いていく。故郷の旭川からは母・美知子さんが訪れ、最後は涙ながらに訴えかけられた。小野田もついに、12月から野球部へ戻ることを決意。その決断を鈴木は大いに喜んでくれたが、こう付け加えることも忘れなかった。
「同級生からも、簡単に許してもらえる感じじゃないからな。俺もサポートするから、一緒に頑張ろう」
まずは同級生の一人、一人に頭を下げて回ることから始めた。部に復帰してからは毎日、始発電車でグラウンドへ向かい、夜は全部員の練習終了を待って、部室の戸締まりをする。それは仲間として認められるための、小野田なりのけじめだった。部内の紅白戦で結果を残し、2年春のリーグ戦に出場するようになってからも、試合のない日以外は半年間、下積みの生活を続けた。それでも、復帰を果たしたその春は打率・361、3本塁打の活躍で外野のベストナインを獲得。以降はレギュラーに定着し、リーグ戦通算84安打、同13本塁打の成績を残し、名門・東京ガスへの入社を決めた。
そんな2人の絆の強さを物語る試合がある。4年秋の早慶3回戦。9―0で迎えた9回2死から、4番手として救援したのが鈴木だった。
「自分たちにとって、最後の試合の最終回に鈴木が投げて…。その時はもう、涙が止まらなくなってしまって。僕自身のいろんな思いもあふれ出たというか」
右翼の定位置から雄姿を見つめるはずが、次第に小野田の視界はぼやけていった。鈴木はきっちりと5球でニゴロに封じて試合終了。「自分のところへ飛んで来てたら、多分、捕れてなかったです」。今では笑って振り返ることができるが、鈴木にとってリーグ戦通算3試合目のマウンドに、誰よりも胸を熱くしたのが小野田だった。
「健介に改めて言えないですけど、僕の思いは少なからず伝わっていると思う」
ユニホームを脱いだいま、胸に去来するのは周囲への感謝だ。妻・珠里(じゅり)さんが5歳と2歳になる2人の男の子を育ててくれてきたからこそ、野球に集中することができた。家族をはじめ、野球部の恩師、先輩、同期、後輩。そして、応援してくれた職場の上司、同僚、仲間たち。万感の思いを込めて、言葉をつなぐ。
「当時の岡村監督がおられた東京ガスに入社したこともご縁だと思います。エリートと言ってもらえることが多いですけど、そうではないんです。本当に、たくさんの周りの方々に支えられ、助けられてきたからこそ、何とかここまでやってこられたと思います。家族、妻にも感謝しています」
小野田にとって誇るべきは、自らの華々しいキャリアではない。それは、長い野球人生をともに歩み、支えてくれた多くの人々だった。
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