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愛子 4位も「達成感マックス」笑顔で五輪“引退”

[ 2014年2月10日 05:30 ]

決勝を終えた上村は涙まじりの笑顔でインタビューに答える

 上村愛子(34=北野建設)の最後の五輪が終わった。フリースタイルスキー女子モーグルで5度目の五輪だった上村は決勝1回目を9位で突破し、2回目は6位で通過。上位6人による3回目はメダル圏内にいたが、最終滑走者に抜かれて4位に終わった。98年長野五輪から5大会連続入賞は冬季五輪の日本人新記録。同じ順位でも涙に暮れた4年前とは対照的に、最後はすっきりとした笑顔で五輪からの“引退”を明かした。

【女子モーグル結果】

 最終滑走のカーニーにかわされメダル圏外に転落した。前回のバンクーバーと全く同じ展開での4位。だが、涙に暮れた4年前とは対照的に、上村には笑顔で勝者を称えるゆとりがあった。

 「とてもすがすがしい気持ち。五輪を凄くいい思い出で終われる」

 上村愛子は変わった。5度目の五輪が近づくにつれ、関係者が口をそろえたのは上村の穏やかさについてだった。母親の圭子さんが「リラックスして見えた」と話したように、かつての張り詰めすぎた緊張感が消えた。

 バンクーバー五輪後、1年間の休養が上村を変えた。モーグル以外の生き方を見つけようとした日々。夫の皆川賢太郎は「スキーから離れる理由を探していた」と振り返る。東日本大震災で宮城県塩釜市の友人に物資を届け、避難所でうつむいて物資を配っていると被災者に声をかけられた。「五輪、見てたわよ。頑張ってね」。同じころ、皆川とスキーに出かけて偶然コブ斜面を滑り「やっぱりうまいなあ」と褒められた。それが最後の後押しになった。モーグル選手としての意味を自覚し、自ら決めた再挑戦。一度立ち止まったことで別人になった。伊藤みきら後輩も成長。注目や重圧からも解放された。

 世界のモーグルも変わっていた。ジャッジの評価基準、コースの特性まで変わり、エッジで雪面を彫り込む得意のカービングは得点に結びつきにくくなった。苦闘は続いたが、誇らしさを感じる瞬間もあった。昨季開幕直後、J・デュフールラポワントから「愛子のターンが凄く速かったから私たち頑張ってるの」と声をかけられた。「凄く強い人がいて、その人に勝ちたくてみんな強くなる。私もその中の一人になれた」。09年世界選手権2冠に輝いた上村の時代は終わっていた。今回はJ・デュフールラポワントが金メダルだった。

 休養で一般女性レベルまで衰えた肉体はようやく今季からアスリートの体に戻り、スクワットで100キロを上げるほど力強さを増した。心身ともに準備が整い「凄く開き直って」迎えられた5度目の五輪。6人による決勝3回目は上村が第1走者だった。第1エアのヘリコプターから中間斜面の斜度変化を利用して加速。カービングではターン点は伸びずとも決勝3回目で最速を記録した。

 滑走後は得点を確認するより早く、ゴーグルの奥で涙があふれた。「こういうふうに滑りたいとか、失敗なくせめて滑りたいなということが3本全部かなった。達成感はマックス」。98年長野の7位から6、5、4と一段ずつ上がってきた順位は最後に足踏みした。だが、前回とは違う達成感とラスト五輪の少しばかりの感傷。「帰ってきてよかった」。一瞬の涙は、ゴーグルを外すころには笑顔に変わっていた。

 ◆決勝VTR

 ☆1回目 スタート直後にバランスを崩したが、その後は立て直し、第1エアでヘリコプター、第2エアでバックフリップを確実に決め20.43点の9位。20人中上位12人が決勝2回目に駒を進めた。

 ☆2回目 スタートでバランスを崩すこともなく、第1エアでヘリコプター、第2エアでアイアンクロス・バックフリップを決めるなど攻めのスキーを貫き、21.15点の6位。上村までの上位6人がメダルを争う3回目に進出した。

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