【有馬記念】アエロが挑む“有終の独り旅” 菊沢師「まだ奥がある」

[ 2019年12月16日 06:30 ]

我らLast Run(1)~ありがとう、そしてさようなら~

<有馬記念>坂路で調整したアエロリット(撮影・西川祐介)
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 豪華メンバーの有馬記念は、同時に別れの時でもある。今年は6頭がグランプリを最後にターフに別れを告げる。G1戦線を彩り、最終戦に全てを懸ける6頭を連載で追う「我らLast Run」。第1回は大舞台で常に先頭を切り、馬群を引っ張ってきたアエロリット。 有馬記念

 どんな距離でも、どんな相手でも、逃げて厳しいペースを刻む。スローペースからの瞬発力勝負に慣れた馬たちを一喝するかのようにレースを引き締め続けたアエロリットは貴重な個性派だ。こんな表現をすると、まるで精密機械のような印象を与えるが、普段の姿は非常にキュートだ。「ニンジンが大好き。食べている時、凄く可愛いんだ。やはり引退というワードを聞くと寂しくなる。僕が一番寂しいんじゃないかな」。美浦で常にその背にまたがってきた菊沢師が語った。

 「1歳の募集が始まる前に牧場で“今年はこれです”と言われたのが初対面だった」。北海道安平町のノーザンファームで生まれたクロフネ産駒の牝馬。非常にひょろっとしていたが、走りそうな雰囲気はあった。「ここから成長して肉がついてくれればいいなと思ったのが第一印象」。前走・天皇賞・秋では516キロで出走したアエロも、東京でのデビュー戦(1着)は476キロ。戦うごとに筋肉のよろいを身にまとい、力強くなっていった。

 競馬の世界では馬が人を育てるという。この芦毛の牝馬は菊沢師を大きく成長させた。「典さんに乗ってもらえるような強い馬を育てたくて自分は調教師を目指した」。典さんとは横山典のこと。師の妻・桂子さんは横山典の実妹だ。つまり、横山典は義理の兄。横山典も義弟の奮闘に応えるべく、デビュー戦からまたがって競馬を丁寧に教えていった。6戦目、迎えた17年NHKマイルCは2番人気。ロケットスタートを切ると、好位追走から直線を向いて先頭に立ち、一気にゴールまで駆け抜けた。師にとってG1初勝利。「本当にうれしかった。一生忘れない」。つい昨日勝ったかのように、うれしそうに目を細めた。

 もう1つ、強烈な教えがあった。今年1月のペガサスワールドCターフ(9着)。遠征中の米国を歴史的大寒波が襲った。マイナス30度まで冷え込んだ地域では多くの死者が出た。「迎えに行く飛行機が寒波で飛ばなくなった。現地には馬はもちろん、大切なスタッフもいた。本当に人馬の命の心配をした」。異国では何が起こるか分からない。無事で帰国できた今だから話せるエピソードだ。

 「3歳のNHKマイルCを勝った時に“まだ奥がある”と言った。今もまだ奥があると思っている。本当ですよ」。2000メートルは2度走ったことがある。だが、2500メートルは初めてだ。己の限界に挑戦するラストラン。それもアエロリットらしくていい。何しろ、まだ奥があるのだから。

 ◆アエロリット 父クロフネ 母アステリックス(母の父ネオユニヴァース)牝5歳 美浦・菊沢厩舎所属 馬主・サンデーレーシング 生産者・北海道安平町ノーザンファーム 戦績18戦4勝 総獲得賞金4億9764万8900円(戦績、賞金ともに海外含む)。

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