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「F1に未練はない?」苦境に立つ“出戻り世界チャンピオン”が東京E-Prixで隠した本音

[ 2024年4月4日 12:00 ]

「ニックは今、どうしているのだろう」

フォーミュラE東京大会の取材が決まった時、真っ先に気になったのがニック・デ・フリースの消息だった。昨年、念願のF1にステップアップしながら期待したような結果が出せず、わずか10戦で表舞台から姿を消した。

2023年はアルファタウリからF1に参戦。しかし、イギリスGPを最後にシートを喪失した。
アルファタウリでは角田裕毅とチームメイトだった。角田は戦闘力の劣るマシンでシーズン前半戦から得点を重ねた一方、デ・フリースはノーポイントに終わっていた。

その後は、以前参戦していたフォーミュラEに戻ったと聞いたものの、ネットニュースで見る限り、ここまで目立った成績は上げられていない。古巣でも苦労しているのか。もし戻れるものなら、F1に戻りたいのか。実際に会って、聞いてみたいことはたくさんあった。

デ・フリースが現在所属しているのは、マヒンドラ・レーシングというインド資本のチームだ。フォーミュラE創設以来ずっと参戦している最古参チームのひとつで、元F1ドライバーのニック・ハイドフェルドを擁した2016/17年のシーズン3にはチーム選手権3位までいっている。とはいえ、ここ数年は優勝もなく、全11、12チーム中8~11位あたりが定位置になっている。

2020/21年のシーズン7にメルセデスEQフォーミュラEチームで年間タイトルを獲得したデ・フリースにしてみれば、都落ちの感は否めない。一方でチーム側からすれば、かつての王者に復活を託したということかもしれない。

シーズン7にデ・フリースはチャンピオンを獲得。メルセデスはデ・フリースとストフェル・バンドーンという強力なドライバーラインアップでダブルタイトルを獲得した。

ちなみに、チームメイトのエドアルド・モルタラは、デ・フリースがチャンピオンとなったシーズン7にROKiTベンチュリ・レーシング(現マセラティMSGレーシング)で選手権2位の成績を残している。かつての“ワン・ツー・コンビ”が、新たなチームでタッグを組んだということだ。

デ・フリースに話が聞けたのは、決勝の前日だった。22人のドライバー全員を国内外のメディアが囲み、話を聞きたいドライバーに声をかける。今季まだ一度も入賞できていないデ・フリースは暇そうにしていたので、すぐにこっちに来てくれた。

「久しぶりのフォーミュラEは、どう?」と、挨拶がわりのつもりで軽い質問を投げてみた。するとデ・フリースはいきなり、今のチームでレースを戦うことがいかに楽しく、やりがいのあることかを滔々と語り始めた。すごく饒舌で、ほとんどチームの広報資料を読み上げているような感じさえ受けた。

それではと、F1とフォーミュラEのドライビングの違いについて訊いてみる。

さっきほどの棒読み感はなくなった代わりに「何も共通点なんてないよ、全然違うクルマだし」と、そっけない答えに終始した。結局、デ・フリースとの久しぶりのやり取りは、本音が何も聴けなかったという思いのまま終わったのだった。

迎えた決勝日。予選はこの日の午前に行われた。11台ずつ2グループに分かれて実施されるグループステージで、デ・フリースは上位のタイムを出せず、グループ6番手、総合12番手に終わった。一方のモルタラはデュエルステージの準決勝まで進む速さを見せ、今季マヒンドラの最高グリッドとなる3番手を獲得した。

決勝レースも、デ・フリースは苦しい戦いを強いられた。序盤から順位を下げ、最後はすぐ前でクラッシュした2台を避けきれず、リタイアでレースを終えた。対するモルタラは終盤に順位を下げたものの、6位フィニッシュ。しかしチェッカー15メートル前でエネルギーを過剰に使っていたことがわかり、失格裁定を下される。今季初ポイントを失ったマヒンドラにとっても、悔しい結果となった。

「今回はフリー走行の時から、ずっと乗りこなせない感触だった。路面のバンピーさにも、ひどく手こずったしね。その状態のまま予選、決勝と進んだ。苦しい週末だったよ」

東京大会までの5戦を終えて、ノーポイントのデ・フリースは選手権20位だ。

「次のミサノは常設コースだし、もう少しうまくやれると思う」

最後に、「F1に、もう未練はない?」と、尋ねてみた。

するとデ・フリースは少し天を仰ぐようにしながら、「ジーザス」と小さく答えた。その直後、チームの広報担当が、「質問はフォーミュラEだけにして」と遮り、僕たちのやり取りは唐突に終わった。


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