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V10山中苦戦の理由…右フック練習で“神の左”鈍く…

[ 2016年3月11日 07:45 ]

WBCバンタム級タイトルマッチで3回、ダウンする山中

 「終わった、と思いましたよ…」。WBC世界バンタム級王者・山中慎介を担当する帝拳ジムの大和心トレーナーが一夜明け会見で打ち明けた。山中が国内歴代3位タイの10度目の防衛に成功した3月4日のリボリオ・ソリス(ベネズエラ)戦の3回、2度目のダウンを喫したときの心境だ。

 山中は初回に右カウンターがヒットする好スタート。2回には押さえ込むような右フックで、世界戦では初めて右でダウンも奪った。しかし「左を伸ばしきって当たるのが本来の距離」(大和トレーナー)という山中にとって、右フックが当たる相手との間合いは近すぎた。3回は右フックの打ち合いでまともに顔面を打たれてダウン。さらに左の打ち終わりに右カウンターを合わされて、再び尻もちをついた。

 調子が良い時の山中はセコンドの指示をあまり聞かないという。「頑固なんですよ。でも、ピンチになると言うことを聞くんです」と大和トレーナー。ぼう然と戻ってきた山中に対し距離に注意するよう言って聞かせ、途中から右を返す時はフックではなくアッパーを打つよう指示した。頭の位置がほぼ動かないフックに比べ、アッパーは腕を突き上げる時に頭が後方に戻り、被弾する確率が減るからだ。落ち着きを取り戻した山中は4回以降、飛び込んでくるソリスの右を受けながらも得意の左で何度も後退させ、9回にはダウンも奪って判定勝ちした。

 だが、試合を支配したように見えた“神の左”も、大和トレーナーには本来の威力を失っていると感じられた。「右フックを練習してきた分、左ストレートが落ちている。昔のように体重が乗っていない」。一撃で相手を倒してきたこれまでの左は、例えると「アイスピック。1点を貫いて効かせる」。それが「今は大砲」と言うようにパワーが分散しているという。他団体王者との統一戦など今後はさらなる強敵との戦いが予想されるだけに、「変なパンチを覚えるより、もっと左を磨く。ジャブと、本当に強いストレートを突き詰めていった方がいい」とストロングポイントにこだわる方針を示した。

 ベルトを巻いてもさらに高みを目指すため、自身の武器を増やそうとするのは自然な流れだ。山中も左に比べて右が課題と指摘され、強化に取り組んできた。だが、ボクシングライターの原功氏は「山中はバランスが崩れるほど打ち込む左で相手を倒してきた。そこからさらに右まで返すことを意識すると、どうしても最後まで左を打ち込めなくなる」と分析する。帝拳ジムではミドル級で世界を狙う村田諒太もプロ転向後にボクシングの幅を広げようと模索したが、重心を乗せて右を打ち込む原点に立ち返った結果、1月の試合で2試合ぶりにKO勝ちした。

 全ての状況に対応できる器用さも魅力的だが「高校時代とスタイルは変わらない。左1本でのし上がってきた」と言い切る山中はやはり、オンリーワンの武器あってこそだと思う。 (中出 健太郎)

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2016年3月11日のニュース