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日本人ボクサー鬼門のタイ かつてはルール逸脱した“地元の利”も

[ 2015年7月27日 12:30 ]

8月7日に世界戦に臨む赤穂

 ボクシングのWBO世界バンタム級1位の赤穂亮(横浜光)が来月7日にタイ・バンコクで、同級2位のプンルアン・ソーシンユー(タイ)との同王座決定戦に挑む。2度目の世界挑戦となる赤穂は「どこでやっても勝つ」と意欲を見せている。強打を武器にする男だけにKO勝利が求められる敵地での戦いに期待も持てるのだが、タイでの試合となるとどうしても心配が先に立ってしまう。日本人ボクサーのタイでの世界戦通算成績は1分け18敗。まだ誰も勝ったことがないのだ。

 どのスポーツでもアウエーでの戦いは厳しいものだが、なぜボクシングにおけるタイでの試合に限ってはこうまで勝てないのか。かつて勇利アルバチャコフの試合では地元選手のピンチを救うために、ラウンド終了の30秒以上も前にゴングを鳴らされた。計量の際、はかりに細工されていることもあった。さらには現地の迎えの車に遠回りされたり、宿舎のエレベーターが突然止まって閉じ込められることもあったという。ルールを逸脱する試合運営と姑息な嫌がらせ。かつてのタイのリングは明らかに公平ではなかった。

 だが、近年は状況が変わっている。以前のようなひどい試合運営では国際的な信用を失うからだ。2年前、当時WBC世界スーパーフライ級王者だった佐藤洋太が防衛戦に臨んだ。佐藤ははかりの細工や嫌がらせなどを警戒して現地入りしたが、心配したような事態は何も起こらなかった。それでも、当時同級8位の挑戦者シーサケットに8回TKOで負けてベルトを失った。

 試合後、佐藤は「体が動かなかった」と言った。武器であるフットワークが使えなかった。その理由の1つは減量苦にあったが、それだけではない。試合前のセレモニーでは地元の有力者などが延々とあいさつし、リング上で25分も待たされた。会場は大型倉庫で、エアコンはない。大型扇風機は試合直前に「故障した」と突然止まった。気温35度、湿度75%にまで上がった。この蒸し風呂のようなリングに現地のボクサーは慣れている。だが、日本選手は普段冷房の効いた会場で試合をすることがほとんど。佐藤は戦う前に体力を削られていた。

 また、タイの観客は地元選手がパンチを出すたびに、当たっていても当たっていなくても「オー、オー」と大合唱する。地元選手が気をよくして頑張るのはもちろん、ジャッジの印象も地元選手優位に流れやすくなる。日本選手は心を乱されてしまう。

 タイ陣営は“合法的”に日本選手の弱点を突き、地元の利点を生かしてくる。どこまでもしたたかだ。佐藤が会場を去る時、故障したはずの扇風機は何ごともなかったように動いていた。 (柳田 博)

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2015年7月27日のニュース