【内田雅也が行く 猛虎の地】「麒麟児」の成長と苦悩知るマウンド 「伝説の左腕」を求めたフォーム
(17)向ノ芝球場
前岡(現姓・井崎)勤也(83)が思い出深い和歌山県営向ノ芝球場のマウンドに立ったのは1959(昭和34)年3月12日だった。阪神入りして4年目、南海(現ソフトバンク)とのオープン戦。先発し、2回を1安打無失点に抑えた。カーブで3三振を奪い、6番を打っていた野村克也を右飛に取った。
当時のスポニチには「四年目でやっと陽の目」との見出しで記事がある。「やっと皆の仲間入りができ、一応投げられるようになった」と控えめな喜びの談話がある。
和歌山・新宮高時代は「高校球界の麒麟児(きりんじ)」と呼ばれ、ナンバーワン投手だった。2年生の54年夏の甲子園大会では北海戦で延長17回を完封するなど4強。55年夏は同年春の選抜優勝、坂崎一彦(巨人)を擁する浪華商(現大体大浪商高)を破るなど8強に進出した。大会後、ハワイ遠征の全日本高校選抜にも選ばれた。
本姓は井崎。満州(現中国東北部)で生まれ、家族で引き揚げた三重県亀山町(現亀山市)で育った。亀山中時代の活躍を知った新宮高が越境での入学を勧誘し、前岡家の養子となった。当時各地でみられた「野球養子」だった。
ドラフト制のない自由競争の時代。激しい争奪戦となった。阪神スカウト・青木一三は実家の井崎家に養子縁組を解消するように働きかけ、獲得にこぎ着けた。最後の公式戦、神奈川国体で新宮が敗れた11月1日、内々に江の島の老舗旅館「岩本楼」に前岡を連れ出し、契約を交わした。『戦後プロ野球史発掘』(恒文社)で明かしている。契約金は当時史上最高の700万円と伝わる。
正式発表は11月17日、大阪・梅田の阪神ビル内球団事務所で行われた。球団代表・田中義一が「投手団に千鈞(せんきん)の重み」と語り、見出しに「優勝へ大いなる希望」。即戦力としての期待の高さがうかがえる。
そんな前岡が新宮高時代、成長への階段を上ったのが向ノ芝球場だった。和歌山県予選は戦前からスタンド設備のある桐蔭高グラウンドで開催していたが、52年、県内初の本格的野球場として完成、舞台となった。国鉄東和歌山駅(現JR和歌山駅)から徒歩10分の好立地だった。前岡は3年夏の県予選・紀和大会と全5試合を無失点、うち2試合ノーヒットノーランの快投を演じている。
新宮高監督だった古角(こすみ)俊郎(2013年、91歳で他界)が手塩にかけて育てた。長身の左腕で、海草中(現向陽高)同級生だった嶋清一に重ねあわせ「第2の嶋」を目指した。
嶋は39年夏の甲子園大会で全5試合を完封、準決勝、決勝は連続ノーヒットノーランという快挙を成し遂げた。45年3月に戦死し「伝説の左腕」と呼ばれた。08年に野球殿堂入りしている。
1年生当時、制球難に苦しむ前岡を「必ず日本一の投手になる」と励まし続けた。素足でステップ位置に鎌を置き、テークバックの左手位置にはくぎに出たプラカードを置いた。校内にあった理髪店の大鏡でシャドーピッチングを繰り返した。前岡の1年上の先輩、田中弘倫の『古角イズム』(彩流社)に詳しい。
嶋が海草中時代に行っていた練習法だった。フォロースルーで右足一本で立つバランスの良さなど、完成したフォームは嶋そっくりだった。
だが、苦労して作ったフォームはプロで崩れてしまった。1年目の56年3月3日、卒業式に出た帰り、夜行列車で早朝、天王寺駅に着いた。休日予定のはずが、スポニチに当日の毎日(現ロッテ)定期戦で先発と予告されていた。疲れた体で投げ、初回先頭から5連続四球など大乱調……と当連載10年11月30日付「天王寺駅」で書いた。その後もコーチの指導でフォームを見失っていった。
冒頭の南海戦を駅前のみその商店街でお好み焼き店「フジモト」を経営する藤本年男(74)が観ていた。当時中学生。「あの前岡投手が地元で投げると興奮した」と言う。小学生時代、甲子園での試合を小学校講堂や商工会議所でテレビ中継に見入った。今で言うパブリックビューイングの会場は人であふれた。大ヒーローだった。
自宅からすぐの向ノ芝球場は遊び場だった。超満員だったがトンボ線(有刺鉄線)から木造スタンドへ忍び込む抜け穴も知っていた。試合後も前岡を追跡した。主力は料亭旅館「鳥松」で着替え、若手は銭湯「羽衣湯」に歩いた。目の前に前岡がいたが「サインください」と言えなかった。
古角は当日、スタンドで見守った。新聞に「もう大丈夫だ」と希望を与えるように語っている。だが小さくなったフォームも目に映ったろう。同年9月になってプロ初勝利をあげるが、結局その1勝だけに終わった。向ノ芝球場は63年限りで閉鎖され、翌64年、静かにユニホームを脱いだ。 =敬称略=(編集委員)
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