槙原寛己氏 ソフトB・千賀を救ったもう一本の「刃」 初戦で明暗分けた「徹底力」

[ 2020年11月22日 06:15 ]

SMBC日本シリーズ2020第1戦   ソフトバンク5―1巨人 ( 2020年11月21日    京セラD )

<巨・ソ>直球を軸に7回無失点の千賀(撮影・平嶋 理子)                                                       
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 【槙原寛己 シリーズ大分析】ソフトバンク・千賀は「お化けフォーク」を巨人打線に見逃された。それでも7回零封で圧倒した理由を、スポニチ本紙評論家の槙原寛己氏(57)は、直球の球威だと分析した。4回無死一、二塁のピンチで丸を遊ゴロ併殺に仕留めた一球が、試合の分岐点となった。両チームの継投についても言及。巨人は故障明けの左腕・中川を8回に起用する手もあったのではないかと指摘した。

 「お化け」が退治されそうになっても、千賀はもう一本の刀を隠し持っていた。それは直球の「球威」という強烈な武器だった。
 千賀の代名詞ともいえる「お化けフォーク」。この日は計17球で3球しか空振りを奪えなかった。なぜか。巨人打線が低めを徹底的に捨ててきたのが一つ。もう一つは千賀自身が直球のコントロールを制御できず、高めに抜けたり引っ掛けたりしたボールが多かったからだ。フォークを振ってもらうには条件がある。角度のある直球を低めに制球することで、打者は同じ軌道から縦に大きく落ちるフォークに思わず手を出してしまうのだ。

 巨人は3回の攻撃の前に円陣を組んだ。低めを捨てることを徹底したのだろう。直後のウィーラーに8球、大城には12球粘られた。4回には先頭・坂本に四球。岡本にはカウント2―2からフォークを2球見逃されて四球を与え、無死一、二塁とされた。ここが勝負の分水嶺。千賀も一番苦しい場面だったろうが、ここでもう一本の刀を抜く。

 丸をカウント2ボールから遊ゴロ併殺打。直球を待っているところにこん身の154キロ直球を投じた。球威で勝った上に、やや引っ掛かり気味に外角低めにいったのは千賀にとって幸運だった。勝負のあや。甘く行けば丸は捉えていただろうし、勝負の行方も分からなかった。

 千賀は圧倒的な球威を頼りに、そこからはコースを狙うことなく大胆に攻めた。甘くいってもファウル。一歩間違えれば巨人打線に攻略されてもおかしくなかったが、「最も打ちづらい球種」とされる力のある直球が自らを救ってくれた。

 対する巨人先発・菅野には「徹底」の姿勢がほんの少しだけ足りなかったか。6回6安打4失点。相手主砲の柳田を徹底マークし、無安打に封じた。それだけに栗原の3打席目がもったいなかった。

 柳田に対しては初回2死での第1打席で直球、スライダーと4球は全て内角。最後は膝元に鋭く曲がるスライダーで三振に仕留めた。強い意志を感じる配球。その徹底した姿勢を、栗原に対しても貫いても良かったのではないか、と思う。

 2回の先制2ランは内角スライダー、4回の右翼線二塁打は内角直球を打たれた。6回2死一、三塁での第3打席。栗原の思考は「もう内角は来ない」だったろう。そこに外角高めのフォーク。狙い澄ましたように逆方向の左中間にはじき返された。ここで巨人バッテリーは相手の裏をかき、あえて内角を攻めてもよかった。

 結果は点差を4点に広げられる痛恨のタイムリー。柳田を抑えた一方、栗原には「シリーズ男」と言ってもいい勢いを与えてしまった。

 巨人は初戦を菅野で落としたダメージは大きい。6回87球で降板したが、中4日で第5戦の先発を見据えてもいいかもしれない。

 7回からは戸郷、高橋と若手を起用。高橋が決定的な5点目を失った8回は同じ左腕の中川をマウンドに送ってもよかった。左脇腹痛で離脱し、1軍の公式戦登板は10月6日のDeNA戦が最後。いきなりピンチの場面で起用するより、試運転として使ってみる手はあった。対するソフトバンクのリリーフ陣では、モイネロの存在感はやはり圧巻。あのカーブに巨人打線は今後も手こずるだろう。

 巨人にとっては絶対に落とせない第2戦。先発左腕・今村の持ち味である、相手の勢いを自在にかわす投球を生かすためにも、先制してリードを奪いたい。

 《今季・243も》今季17本塁打を放ちブレークした栗原。本塁打を放ったゾーンを見ると、真ん中が8本で最も多く、次いで内中が5本だった。この日菅野のスライダーを右翼に運んだのも、内角ベルト付近のゾーン。今季シーズン打率は・243だが、内角はめっぽう強く、いずれも3割以上をマークしている。

 《モイネロカーブ進化》モイネロの今季の被打率は.164。特に石川、坂本を連続三振に仕留めた落差の大きいカーブは39打数4安打で.103と低く、昨季の.158からさらに切れ味を増している。今季は左打者に対するカーブの被打率は15打数1安打で.067。昨年の日本シリーズでも3試合に登板し、計3回1/3で1安打無失点と好投しており、今年も巨人打線には厄介な存在となりそうだ。

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