グループAのGT-FOURでもなくグループBのツインカムターボでもない……WRCに挑んだダルマセリカ!『モーターファンフェスタ2024』を振り返る
グループ4ってナニ?1970年代のWRCの車両カテゴリーについて
モータースポーツには参戦する車両を定めるレギュレーションがあり、特に「世界選手権」の冠を掲げる競技では、統括するモータースポーツ団体である「FIA(世界自動車連盟)」とその下部組織「FISA(国際自動車スポーツ連盟)」が定めており、車両と競技のカテゴリー分けについても同様だ。
グループ | 年代 | 車両 | 生産義務台数(台) |
1 | 1966-1981 | シリーズツーリングカー | 5000 |
2 | 1966-1969 | ツーリングカー | 1000 |
2 | 1970-1981 | 特殊ツーリングカー | 1000 |
3 | 1966-1969 | グランドツーリングカー | 500 |
3 | 1970-1981 | シリーズグランドツーリングカー | 1000 |
4 | 1966-1969 | スポーツカー | 50/25 |
4 | 1970-1975 | スペシャルグランドツーリングカー | 500 |
4 | 1976-1981 | グランドツーリングカー | 400 |
5 | 1966-1969 | 特殊ツーリングカー | – |
5 | 1970-1971 | スポーツカー | 50 |
5 | 1972-1981 | グループ1〜4から派生した特殊車両 (シルエットフォーミュラ) |
– |
6 | 1966-1969 | プロトタイプスポーツカー | – |
6 | 1976-1981 | 2座レーシングカー | – |
7 | 1966-1975 | 2座レーシングカー | – |
7 | 1976-1981 | 国際フォーミュラ | – |
8 | 1966-1971 | フォーミュラ | – |
8 | 1972-1975 | 国際フォーミュラ | – |
8 | 1976-1981 | フォーミュラリブレ | – |
9 | 1966-1975 | フォーミュラリブレ | – |
1981年までの車両規則は「グループ+数字」でカテゴリー分けされており、数字が小さいほど市販車に近く、大きいほど特殊な車両になっていた。たびたび変更はされてきたが、概ねグループ5以下が市販車およびその改造車、グループ6以上がスポーツプロトタイプやフォーミュラカーといった純レーシングカーとされてきた。
上の表の「生産義務台数」は競技車両としてのホモロゲーションを獲得するのに必要な連続する12ヶ月間での生産台数を表しており、このほかに排気量や改造範囲の制限、クラス分けが行われる。
ラリーにおいては基本的には生産台数義務が生じるグループ1/2/4の車両が使用され、トップカテゴリーはグループ4で争われた。
なお、1982年からこの規則は根本的に変更され、カテゴリーは「グループ+アルファベット」に置き換えられ、ラリーではいわゆるグループBのモンスターマシン、その廃止後はグループAと、より市販車に近いグループNが使用されていくことになる。
また、WRCは元々各地で開催されいた有名なラリーをシリーズ戦に統合したもので、1970年の国際選手権化を経て1973年に世界選手権として正式にスタートした。今回紹介するセリカはそのWRC黎明期のトップカテゴリーであるグループ4にあたる車両なのだ。
TE27カローラ・レビンからのバトンを受けたRA20″ダルマ”セリカ
トヨタのWRCへの挑戦は、WRC正式発足前の1970年のコロナ・マークIIGSSによるモンテカルロラリーが嚆矢。WRC発足(1973年)後の1974年に、トヨタはデビュー時にドライバーとして起用したオベ・アンダーソンが率いるTTE(TOYOTA ・TEAM・EUROPA)にWRC活動を委ねTE27型カローラ(レビン)を投入。1975年に悲願の初優勝を遂げる。1976年からは2.0Lの18R-Gエンジンを搭載したRA20型、”ダルマ”と言われた初代セリカにマシンをスイッチした。
MFFのトヨタブースに展示されたRA20型セリカ2000GTはTTEにより全4台が製作されたグループ4マシンの1台で、現存するのはこの1台のみと言われる貴重な個体。
エンジンは当時のトヨタの2.0L級スポーツユニットである1968cc水冷直列4気筒DOHC8バルブの18R-Gに、レギュレーションで許された競技用の16バルブヘッドを組み合わせている。
展示されたマシンはハンヌ・ミッコラのドライブで、デビュー年の1976年1000湖ラリー(フィンランド)で3位、1977年のRACラリー(イギリス)で2位を獲得した4台中で最も成績が良かった個体だという。
ランチア・ストラトスとも渡り合うが勝利には届かず……1976年
グループ4は400台(1975年までは500台)の生産義務を果たせばスペシャルマシンを開発することも可能であったが、実際にそうしたマシンを投入したのはランチアのストラトスだけであり、その他のメーカーはトヨタも含め量販市販車をベースにしていた。
1976年のWRCにはランチア・ストラトスHFを筆頭に、フィアット131アバルト、フォード・エスコートRS1800、サーブ96 V4、プジョー504、ダットサン160J(日産バイオレット)、三菱ランサーGSRがウィニングマシンとして名を連ねているが、ストラトスを除けば量販市販車のハイパフォーマンスグレードをラリー用に改造したものだ。
1976年シーズンのWRCは熟成成ったランチアが全10戦のうち4勝(112ポイント)を挙げ選手権を圧倒。2位のオペル(未勝利/57ポイント)にほぼダブルスコアのポイントでタイトルを獲得している。ランチア以外ではサーブ、三菱、日産、プジョー、フィアット、フォードが各1勝ずつとそれぞれの得意のラリーで優勝を分けあった形だ。
最終的にトヨタはポルトガルで2位、1000湖(フィンランド)で3位、RAC(イギリス)で5位のリザルトで、ランキングは6位で1976年シーズンを終えた。
フィアットとフォードの狭間でポイントを稼ぐ……1977年
1977年はフィアットがストラトスの売上低迷と量販車種のプロモーションのため、主戦マシンをストラトスからフィアット131アバルトに完全にスイッチ。フォード・エスコートRS1800と接戦を繰り広げ(フィアット5勝/136ポイント、フォード4勝/132ポイント)、ランチアから続きフィアットがタイトル獲得(ランチアもフィアットもワークスチームは同じアバルトが担った)に成功する。
※1977年からポイントシステム変更
全11戦で争われた1977年シーズンのWRCで、フィアットとフォード以外に勝利を挙げたのはランチア・ストラトス(モンテカルロ)とサーブ99EMS(スウェーデン)の1勝ずつに留まり、シーズンを通じて表彰台のほとんどをフィアットとフォードが埋め尽くした。
セリカの成績はスウェーデンで5位、ポルトガルで3位、ニュージーランドで6位、1000湖(フィンランド)で4位、サンレモ(イタリア)で6位、RAC(イギリス)で2位というもの。最終的に未勝利メーカーでは最多の68ポイントを挙げ、ランキングは3位に食い込んでいる。
1978年からトヨタはワークスマシンをRA40型の二代目セリカにスイッチするため、MFFに展示されたこの個体はRA20型セリカ2000GT(グループ4)の最後の花道を飾ったマシンと言えるだろう。
RA20型セリカ2000GTグループ4フォトギャラリー in MFF
TTEが作り上げたワークスマシンがわずか4台で、実戦に投入されたのが1976年と1977年の2シーズンのみ。しかも現存するのがこの1台と考えると、極めて貴重なマシンであると実感できる。それが動態保存され、日本で見ることができるのだからありがたいかぎりだ。MFFのみならず、これからもイベントなどで実車を目にする機会に恵まれれば幸いである。
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