浜田剛史氏 井上尚弥は戦術の引き出し多く、試合中に選択できる強さ
WBA&IBF世界バンタム級タイトルマッチ ○統一王者 井上尚弥 KO7回2分59秒 WBA2位・IBF4位 ジェーソン・モロニー● ( 2020年10月31日 米ラスベガスMGMグランド )
プロボクシングWBA&IBF世界バンタム級統一王者・井上尚弥(27=大橋)はWBA2位、IBF4位のジェーソン・モロニー(29=オーストラリア)に7回KO勝ち。ラスベガスデビュー戦を鮮烈に飾り、WBA4度目、IBF2度目の防衛に成功した。
【浜田剛史の目】2回途中から4回にかけて圧力を強めていた井上は5回にペースを落とした。モロニーがすかさず攻めたためロープに下がり、パンチをもらう場面もあった。このままいけばKOという状況だったので、少々もったいなく感じた。メリハリをつけて休むラウンドをつくることは必要だが、明らかに「打ってこない」と分かってしまうと、ダメージを受けた相手が回復し、勢いづかせる。休むにしても分からせない動きを加えることも必要だ。
もっとも、ラウンドの後半には立て直し、6回に左の相打ちでダウンを奪った。思い切り振ったものではなく、ジャブに近いカウンターにもかかわらず、モロニーとのパンチ力の差は決定的だった。ガードが下がり、攻めがやや雑だったのは気になったが、7回には左ジャブだけを連発して流れを切り替え、相手が打ってきたところで右のカウンターで仕留めた。左一本で相手を下げられると瞬時に判断し、相手の動きも利用しながら最後は自分の倒す形に持ち込んだ。
多く持っている引き出しの中から試合中に有効なものを選び、自ら組み立てて的確なパンチを打てるのが井上の強みだ。前回のドネア戦を経て、対応力はさらに上がったように思える。すぐに終わらせるのではなく、7ラウンドを戦ったことで米国のファンや関係者にも「ボクシングの幅が違う」と感じさせたのではないか。
怖い存在になると思われたナバレッテ(メキシコ、WBOフェザー級王者)が階級を上げたため、バンタム級とスーパーバンタム級を通じて、井上のライバルは現時点では見当たらない。総合力が高い井上には教科書どおりの戦い方では勝てない。対抗するには意外性が必要で、その意味でも一発があり、予測できない動きをするカシメロは面白い。ただ、その一発さえもらわなければ問題はない。全てを兼ね備える井上は相手のスタイルに付き合う必要はないし、そうさせないだろう。(元WBC世界スーパーライト級王者)
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