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日本タイトルは世界タイトルより特別というボクサーもいる件

[ 2016年10月10日 10:00 ]

<日本スーパーバンタム級タイトルマッチ 石本康隆・古橋岳也>10回TKOで2度目のタイトル防衛に成功した石本(左)
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 【中出健太郎の血まみれ生活】辰吉丈一郎の次男・寿以輝(大阪帝拳)の東京デビューとあって、10月1日の後楽園ホールは現役世界王者も観戦に訪れるなど普段以上ににぎわった。20歳の寿以輝はパンチ力はともかく技術がまだまだという印象だったが、メインでは日本スーパーバンタム級王者・石本康隆(帝拳)が熟練の技を見せてくれた。ジャブで試合を支配し、多彩な右で挑戦者・古橋岳也(川崎新田)にダメージを与え、最後は逃げ切りを狙わず倒しにいって10回TKO勝ち。35歳の「これでボクシングを続けていける」との言葉に実感がこもった。

 一方、敗れた古橋は、これが2度目の日本王座挑戦だった。試合前日のテレビインタビューでは「日本タイトルは自分の中で世界タイトルより特別なものと思っている」と話していた。その真意は「政治やお金のしがらみがなく、純粋に強い者が手にできるタイトル」というものだった。

 世界タイトルマッチとなると、世界ランキング獲得に加えて海外の選手との交渉技術や資金が必要で、さらには王者や周囲の都合ですんなりと対戦が実現しないもの。それに比べれば日本タイトルは獲得のチャンスが公平にやってくるということだろう。現状では王者の指名試合期限9カ月がほぼ守られており、指名挑戦者を決める大会「最強後楽園」もある。日本ランク入りして勝ち続ければ、いずれチャンスをつかめるというわけだ。

 ただ、残念ながら、日本タイトルマッチは「国内最強を決める戦い」と言えない。その階級に日本人の世界王者や東洋太平洋王者がいればもちろん、世界挑戦や再挑戦のために日本王座を狙わない「保留選手」も存在するからだ。今年8月、日本ボクシングコミッション(JBC)が「保留選手」制度を見直し、世界か東洋太平洋のランキングに入っていない選手は原則日本ランクに戻ることになったが、例えば石本のスーパーバンタム級には保留選手として和気慎吾(古口)、小国以載(角海老宝石)、大竹秀典(金子)の世界ランカー3人がいる。スーパーフライ級に至っては前WBC王者のカルロス・クアドラス(メキシコ、帝拳)や前WBA王者の河野公平(ワタナベ)も含めて7人が保留選手だ。

 少ない試合数で世界王者を目指すため、日本を飛ばして東洋太平洋王座に挑戦する例は最近でも目立つ。さらに今年9月からはWBOの地域タイトル、WBOアジアパシフィック王座戦の国内開催も許可された。JBCは正式認可せずに様子をみる方針だが、日本ランカーには王座挑戦資格があり、世界への近道(アジアパシフィック王者はWBOランキング入りがほぼ確実)として選択する選手が増えることも考えられる。有力選手の多くが関わらない状況が続けば、日本タイトルマッチはレベル低下が避けられず、魅力に乏しい試合となってしまう。プロ10年目の古橋が思い入れを口にしたように、デビューする多くの選手にとっての憧れで、世界を目指す選手には第一関門となる、価値の高いベルトであり続けてほしいのだが。(専門委員)

 ◆中出 健太郎(なかで・けんたろう)1967年2月、千葉県生まれ。中・高は軟式テニス部。早大卒、90年入社。ラグビーはトータルで10年、他にサッカー、ボクシング、陸上、スキー、外電などを担当。16年に16年ぶりにボクシング担当に復帰。リングサイド最前列の記者席でボクサーの血しぶきを浴びる日々。

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2016年10月10日のニュース