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天才と呼ばれた31歳・粟生、因縁の相手“踏み台”に再浮上を

[ 2015年10月9日 10:10 ]

4度目の防衛に失敗し、肩を落として引き揚げる栗生=12年10月

 「あの時の借りは判定では返せない」。来月28日に宮城・仙台市で、ボクシング元2階級制覇の粟生隆寛(31=帝拳)が再起戦を行う。相手は12年10月のWBC世界スーパーフェザー級王座4度目の防衛戦で、12回判定負けを喫したガマリエル・ディアス(メキシコ)。クリンチ際に頭突きされ、額から血を噴き出した3年前の痛々しい姿は今も忘れられない。差し歯は折れ、左眉を縦に4センチも切った。ベルトを奪われた相手との因縁の対決となれば、気合が入るのも当然だ。

 現在のディアスはランキング外で、いわば「おいしい相手」ではない。再びベルトを目指す過程において、このマッチメークの意味を考えれば、「技術」に優れた粟生が精神的に覚醒する瞬間を待つ陣営が与えたチャンスではないだろうか。キャリア終盤にギアを上げた西岡。30代中盤で衰え知らぬ内山。史上初となる高校6冠を獲得し、天才と呼ばれた31歳の粟生が本気になればディアスを踏み台に再浮上するはずだ。

 ただ、純粋に目の前の一戦を見てはいない。相手のドーピング違反が発覚し、無効試合になった5カ月前のWBO世界ライト級王座決定戦。キャリア4敗目の戦績こそ消えたが、ベルトランにKOされた事実は残された。ジムに戻るまでの1カ月。「僕のクリーンなパワーと、ドーピングをしていないベルトランとだったらどうだったか…。あの試合でかけたプレッシャーは通用してなかったのか…」。抜け殻のような状態でさまざまな思いを脳裏に浮かべた。

 壊れる前に、第二の人生を歩んでほしいと心から願う周囲の思いもある。だが、幼少期から父と二人三脚で歩んできた世界王者への道。気持ちと体がバラバラになった時期もあるが「生き残るつもりしかない」と再び王座に返り咲く決意だ。先の長い人生ではあるけれども、限りあるボクシングの現役生活。迷いはない。トップ戦線に浮上する一撃を次のリングで打ち込んでほしい。 (宗野 周介)

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2015年10月9日のニュース