【内田雅也の追球】「機運」呼んだ疾走

[ 2025年8月6日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神6ー2中日 ( 2025年7月29日    バンテリンD )

<中・神> 7回、代打で二塁打を放ち二塁へヘッドスライディングをする高寺 (撮影・亀井 直樹) 
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 野球は団体競技であり、選手同士が互いに刺激しあって試合を進めている。一つのプレーでチームの機運が盛り上がることもある。

 阪神はこの夜、いわゆる負け試合の展開だった。決して好調には見えなかった中日先発の大野雄大に6回無得点と沈んだままだった。しかも、1~4回と毎回先頭打者を出塁させながらのゼロ行進を続けていた。その間、好投の先発・高橋遥人が唯一のピンチで適時打を浴び、2点を先行されていた。

 「流れ」をよく口にする監督・藤川球児も試合後「ゲームの流れがウチにきていなかった」とみていた。

 何か機運を呼ぶきっかけがほしい。そんな時だった。

 7回表も簡単に2死となった。投手・高橋の代打で出てきた高寺望夢が中堅左にライナーで落ちる安打を放った。一塁を蹴り、中堅・岡林勇希の体勢を見て、懸命に駆けて二塁のかなり手前からヘッドスライディングで飛びこんだのだ。

 場内はわき返った。阪神ベンチもわいた。劣勢にあっても不屈でいる姿勢が表れていたからだ。この激走に終盤逆転の可能性を見たのだった。

 この日、甲子園球場で夏の高校野球が開幕した。史上初めて夕方開幕。たそがれ時、夕焼けが美しいなかで始まった。

 毎年この時期が来ると思う。高校球児たちに負けない、はつらつとしたプレーを見たい。

 たとえば凡打での全力疾走である。むやみに走るのではない。プロの疾走というものはある。

 大リーグ通算3154安打の名選手、ジョージ・ブレット(ロイヤルズ)は引退表明後、自身最後の打席について問われ「平凡なセカンドゴロを打ち、間一髪アウトになりたい」と語った。「常に全力でプレーし、全力疾走を怠らなかった選手として人びとの記憶に残りたい」。著書『強い打球と速いボール』(ベースボール・マガジン社)にあった。

 矢野燿大(本紙評論家)も現役最後の打席は内野ゴロを打ち、一塁へヘッドスライディングしたいと望んでいた。

 あの高寺にはプロのはつらつさがあった。ブレットや矢野が言うように、あの疾走で選手たちは不屈を想起したことだろう。だから、その裏の無死満塁をしのげたのだ。さらに8回表の劇的な逆転につながったのだとみている。 =敬称略=
 (編集委員)

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