【内田雅也の追球】なぜ、力まず打てたか。

[ 2025年5月6日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神10―1巨人 ( 2025年5月5日    東京D )

<巨・神>6回、右前適時打を放つ森下(撮影・光山 貴大)
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 3ボール0ストライク、いわゆる「ノースリー」から打つのは難しいと言われる。打者絶対有利のカウントで力んでしまうからだ。

 ベーブ・ルースを上回る大リーグ通算755本塁打を放ったハンク・アーロンはカウント3―0では1球待ったと打ち明けている。著書『ホームラン・バイブル』(ベースボール・マガジン社)で待球の理由を<ボールを強く叩き過ぎたり、どんな投球が来ると分かっていて、悪球に手を出してしまったこともよくある。3―2か3―1の時に打つ方が好きだ。ボールをミートすることを一番心がけるからだ>。

 阪神・森下翔太はそのノースリーから打った。4回表2死、3―0からほぼ真ん中の速球を左翼席にライナーで運んだ。

 それまで巨人・戸郷翔征に完全に抑えられていた。1点先取された直後の2死無走者、ノースリー。一発を狙える状況ではあった。監督・藤川球児も「3ボールから一発で仕留める。素晴らしいですね」とたたえた。力まず、平常心で振り切る。集中力に恐れ入る。

 今季の森下は精神面が安定しているようにみていた。目下発売中の雑誌『Number』(文藝春秋)で緩やかな成長を自らの言葉で語っている。「正直まだ、めちゃめちゃ“これ”という感覚はないですけど、自分のどこがダメで、どうなっているかは客観的にわかるようになった」

 打撃動画を見返して考えるのは打撃フォームだけでなく、その時その時の心の状態なのだろう。

 孫子の兵法に「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」とある。プロ棋士・羽生善治は<究極の学習は「自分をきちんと客観的に知る」(メタ認知)と「相手の気持ち、考え方、感情を知る」(思いやり)であると思っています>と、今井むつみ『学びとは何か』(岩波書店)に記していた。

 メタ認知とは自分の認知(知覚、記憶、思考など)を客観的に捉え、評価し、制御する能力のことをいう。自分を見つめ、改善につなげる力だと言えるだろう。さらに書けば、仲間だけでなく相手の心も知る「思いやり」が深まってきたか。

 だからノースリーでも力まずに自分のスイングができた。さらに反対側へ軽打(6回表・右前適時打)もできる。体も心も硬軟自在の4安打だった。 =敬称略=
 (編集委員)

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