歓声に胸が震えたあの日から1年…阪神・藤浪晋太郎の「応え方」

[ 2020年10月27日 09:00 ]

阪神・藤浪
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 歓声に応えたい――。選手の口から当たり前のように耳にする言葉。プロのアスリートなら「応え方」は、結果であり、質の高いプレーを見せることになる。そんな当たり前のことを甲子園で投げる藤浪晋太郎を見ながら思っていた。

 昨オフ、普段はあまり感情的な部分を見せない26歳が「歓声に応えたい」とはっきりと言った。「今まで歓声に応えようとか、ファンの期待に応えようとか、あんまり考えてこなかった。応えるためにプレーするんじゃなくて、プレーするところを見てもらう。“自分発信”だったんですけど、あれはちょっと…。あんな感じで歓声をもらって。こういう空気感で野球やらないとあかんなと、こういう人たちのために野球やらないとあかんなと。それは今までなかった感情でしたね」。

 未勝利に終わった昨年、唯一の1軍登板となった8月1日の中日戦のことだ。高校時代から幾多の声援を浴びてきた右腕の胸が久々に震えた。確かに長い不振を経て、背番号19に注がれる声の「質」や「温度」は変わってきていた。打たれてマウンドを降りても、野次はほとんど無い。存在、期待の大きさを考えると厳しい声があってこそとも思うが、ファンは今、藤浪晋太郎の笑顔、打者をなで斬る姿を何よりも見たい。そんな願いが、温かい声援に現れている。

 そして今、右腕はその「声」に応えられる場所にいる。チーム内のコロナウイルス集団感染の影響で9月下旬に緊急昇格し中継ぎに配置転換。慣れないポジションへ必死に適応しながら、豪球で魅了し、19日のヤクルト戦では球団史上最速となる162キロをマークした。今や、160キロは通過点として“その先”を待ち望むファンの高揚感が、球場には充満している。

 球速に関して本人は「出るに越したことはない」程度のこだわり。その通りだろう。スピードが出てもアウトは増えない。160キロだって打ち返されることもある。ただ、投手交代のタイミングでリリーフカーの“助手席”に視線が集まり、Mr.Childrenの「終わりなき旅」で爆発する流れは、他の誰にも作れない空気。自他ともに、理想は本来の先発で白星を量産する姿であることは間違いない。それでも、1球ごとにどよめく光景を見ていると、これが、今できる藤浪の「応え方」なのだと思う。そして、その背に注がれる声援は、間違いなく彼の「まっすぐ」の原動力になっている。(記者コラム・遠藤 礼)

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2020年10月27日のニュース