【オークス】武藤師×エセルフリーダ 運を味方にいざ夢舞台へ!息子・雅はクラシック初参戦

[ 2024年5月15日 05:30 ]

ミモザ賞を制したエセルフリーダと騎乗した武藤雅(左から4人目)、管理する武藤師(左端)(撮影・郡司修)
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 春G1シリーズの水曜企画は「G1追Q!探Q!」。担当記者が出走馬の陣営に「聞きたかった」質問をぶつけて本音に迫る。牝馬クラシック第2弾「第85回オークス」は東京本社の万哲こと小田哲也記者(56)が担当。前走ミモザ賞を快勝して勇躍挑むエセルフリーダの武藤善則師(57)に「出合い&希望」「成長&賭け」「絆」の3テーマを問う。

 3年前、21年7月セレクトセール当歳セッション。武藤師のエセルフリーダとの初めての出合いは小さな“幸運”にも恵まれたという。父は大種牡馬の道を歩みつつあるキタサンブラック。母系をたどれば、重賞5勝、オークスとジャパンCで3着の実績がある名牝ダイナアクトレスの名もある。成長力と距離延長に耐え得る魅力に富んでいた。

 武藤師は述懐する。

 「オーナー(高橋文男氏)と値段は上がってしまうかもと、それなりの覚悟はしていました。それが…。(入札で)手を挙げ、周りを見ると、誰も手を挙げてこない。えっ?いいの!?みたいな。一発落札でした」

 お代の1400万円(税別)は微動だにせず、そのままハンマー。「その時点ではキタサンブラックの子が、そこまで活躍していなかったのも幸運だったかもしれません」。父の代表産駒イクイノックスが、新潟で新馬Vを飾ったのは約1カ月後の21年8月のこと。大ブレーク寸前だった。

 期待通りに愛馬は成長した。忘れもしない1歳春のこと。「正直、当歳の時はそれほど体は目立っていなかったですが、1歳になって、みるみる良くなっていたんです。その時ですね。(生産者の)社台ファームの方ともオークスに絶対行きましょうと話したんです」

 桜花賞ではなくオークス向きと見込んで、レースも選択してきた。昨夏の福島新馬戦(3着)から一貫して2000メートル。2戦目の東京で好位から楽に抜け出して初V。4戦目となった“出世レース”の前走ミモザ賞は鮮やかな後方一気。

 「普段の調教は厩舎スタッフが乗るので、雅が乗るのは(1月中山5着以来)久々だったけど、馬が良くなっていると感じていたようで自信もあったみたい。少頭数(7頭)でも出入りが激しく、楽な競馬ではなかったけど、ハミを取り直してからの“はじけ方”は凄かった。あのハマり方はいいですね。精神面の強さも見せてくれたし、中山であの競馬ができるのなら、広いコースでさらに…と期待が膨らみました」

 そして、前走後は小さな賭けに出た。例年、収得賞金900万円のままでは除外、良くて抽選の危険もある。「フローラSも頭にあったのですが、仮に優先権を獲ってもローテは厳しくなるし、オークスに万全の状態で出せない可能性もある。オーナーとも相談して、除外覚悟で早めに一本で決めました」

 賭けは実った。フルゲート(18頭)と同じ登録馬18頭で晴れて出走可能に。

 「1歳の時から、3年越しで夢見ていた舞台。本当にうれしいです」

 武藤師&雅との父子G1挑戦は22年阪神JF(モリアーナ12着=2番人気)、23年高松宮記念(オパールシャルム17着=18番人気)に続き3度目。父子でのクラシック参戦は初めて。

 「モリアーナと一緒で、ずっとお世話になっているオーナー。本当にありがたいことです。雅もミモザ賞で相当手応えをつかんでいると思うし、気合が入るでしょう」と目を細めた。

 晴れてゲートインがかなった以上、等しく「18分の1」のVチャンスはある。

 「血統も(近親に)スクリーンヒーロー(08年ジャパンC優勝)がいて、お父さんがキタサンブラック。コアなファンにはたまらないかもしれません。大跳びで長く脚を使えるので距離も合うはず。東京で勝った時のように好位で折り合うこともできる。それでも、桜花賞組やトライアル組に注目が集まるのでそう人気はないでしょう。思い切って乗れると思います」

 指揮官は決して過度のプレッシャーはかけず、愛息に託した。夢がかなうのをただ信じて。

 ◇武藤 善則(むとう・よしのり)1967年(昭42)3月21日生まれ、神奈川県出身の57歳。86年3月に美浦・黒坂洋基厩舎で騎手デビューし、通算154勝(重賞1勝)。03年厩舎開業。通算345勝、うち重賞は初Vを飾った08年愛知杯(セラフィックロンプ)など4勝(14日現在)。子の武藤彩未は歌手で今年ソロデビュー10周年、武藤雅はJRA騎手。

 《出世レースのミモザ賞》ミモザ賞の優勝馬からは活躍馬が数多く出ている。01年優勝レディパステルはオークスV。08年ユキチャンは関東オークスなどダート交流重賞3勝。20年ウインマリリンはオークス2着、22年香港ヴァーズで海外G1制覇。21年スルーセブンシーズはオークス9着ながら、23年中山牝馬S優勝、宝塚記念2着、凱旋門賞4着と大活躍した。また、エセルフリーダを生産した社台ファームはNHKマイルC(ジャンタルマンタル)→ヴィクトリアマイル(テンハッピーローズ)と現在2週連続G1制覇で強力な追い風が吹いている。

 【取材後記】努めて明るく、笑顔が絶えない武藤師と話をすると、心が洗われる。82年にJRA競馬学校騎手課程第1期生(同期に柴田善臣や石橋守)に入学して40年を超す競馬人生。経験に裏打ちされた言葉には重みもある。

 オークスについては「適性」の言葉を繰り返した。全馬が未知の距離。武藤師は10年前の14年オークスの話を、自ら切り出してくれた。「優勝したヌーヴォレコルトがいて(2着の)ハープスターがいて。今思えば、凄いメンバーでした。でも東京2400メートルなら、人気はなかったけど、ニシノアカツキは勝負になると思っていました。直線は声が出ましたよ!!あの馬もスタミナはありました」

 申し訳ない。僕の記憶からは飛んでいました。フローラS5着から参戦でブービー17番人気。勝浦を背にヌーヴォから首、首、3/4馬身差の4着大奮闘だった。

 オペラハウス産駒のスタミナ自慢。当時の紙面を読み返すと「オークスはしばしばスタミナのある人気薄が来るから」と同師は不気味につぶやいていた。エセルフリーダはその10年前と同じ香りを漂わせている。応援せずにはいられない父子の無欲タッグ。今週も感涙ドラマがきっと待っている。 (小田 哲也)

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