鈴木聡美「強く美しく」 競泳日本勢史上最年長で挑む8年ぶりの五輪
競泳女子平泳ぎ100メートルと200メートルの2種目でパリ五輪代表に決まった鈴木聡美(33=ミキハウス)がスポニチ本紙の単独インタビューに応じた。12年ロンドン五輪では200メートルの銀を含むメダル3つを獲得。16年リオデジャネイロ五輪にも出場したが、前回の東京五輪の出場はかなわなかった。紆余曲折を経てたどり着いた3度目の大舞台。競泳日本勢で史上最年長の鈴木がこれまでの歩みと覚悟を語った。(取材・構成 西海 康平)
紆余曲折を経て再びスポットライトを浴びた。3月のパリ五輪代表選考会。鈴木は100メートル平泳ぎで自己ベストを更新して頂点に立つと200メートル平泳ぎも派遣標準記録を突破して優勝。2大会ぶり3度目となる五輪切符を獲得した。「今回は特別な大会だった。年齢的なものもあるし、どの選手が勝ってもおかしくないレース。気合が入っていた」と振り返る。
山梨学院大4年で臨んだ12年前のロンドン五輪は無我夢中だった。多くの選手が緊張感に包まれる中、楽しくて仕方なかったという。「初めての五輪でワクワクしていて泳ぎの調子も良かった」。神田忠彦監督から直前に泳ぎの修正が入っても素直に受け入れられる余裕があった。200メートルで銀、100メートルで銅、400メートルメドレーリレーで銅。一躍、競泳界のニューヒロインとなった。
だが注目度が急上昇したことから「息苦しさや戸惑いがたくさんあった」と言う。思っていた以上の結果を残し、神田監督からアドバイスを受けても変化を拒む自分がいた。「あの泳ぎでいきたい。私にテンポの速い泳ぎはできない」。結果、リオ五輪は100メートルで準決勝敗退した。レースを終えてプールサイドを引き揚げる際には「こんなのは私じゃない」と自分への怒りがこみ上げた。
悔しさをモチベーションに一度は調子を取り戻したが、20年に入ると世界はコロナ禍に見舞われた。「水泳をやっている場合じゃないな」――。競技に対する否定的な感情から練習に身が入らず、悩み続ける日々。21年の代表選考会は100メートルで3位、200メートルで7位に終わり、五輪メンバーから漏れた。「引退して社会に出た方がいいのかな」と本気で考えた。
ただ、神田監督に加え、師事する永井裕樹トレーナーの言葉で思いとどまった。「“体は全く問題ない。ウエートトレーニングもできる。それを水泳の練習に生かせれば大丈夫。大丈夫だよ”って」。少しずつポジティブな気持ちを取り戻し、結果が悪くても落ち込まないようになった。さまざまな練習メニューを取り入れ、より内面のコアな筋肉を強化。効率よく、速い泳ぎができるようになった。
23年の年明けから調子が上向き、同年7月に地元福岡で開催された世界選手権の100メートルで14年ぶりに自己ベストを更新。30歳を過ぎても進化していることを示し、今年の代表選考会で完全復活を証明した。
8年ぶりに臨む五輪で、思い描く明確な目標がある。
「ロンドンの自分を超えること。100メートルの記録は超えているけどロンドンで表彰台に上がった時の景色は忘れられない思い出だし、もう一度経験したい。100も200も自己ベストを出してメダルを獲得したいというのが一番の思い」
高校時代から座右の銘としてきたのが「捲土(けんど)重来」だ。だが今は「強く美しく」を掲げる。「力強いだけじゃなく美しさも求める。大人の女性としても、美しく。そういった意味を込めている」。競泳日本勢で史上最年長となる33歳。「私はいつまでやるんだろう」と笑うが、今も変わらず午前5時過ぎに起床し、同6時30分からプールに入る生活を続けている。どん底を味わってきたその先に、花の都で最高の聡美スマイルを咲かせる。
○…昨年7月の世界選手権で女子100メートルを制したのは1分4秒62のルタ・メイルティテ(リトアニア)で、3位は東京五輪金メダリストで1分5秒94のリディア・ジャコビー(米国)。鈴木の自己ベストは1分5秒91で、メダルを射程圏に捉える。女子200メートルは、東京五輪金メダリストで2分20秒80のタチアナ・スクンマカー(南アフリカ)が優勝し、3位は2分21秒63のテス・シャウテン(オランダ)。鈴木の自己ベストは2分20秒72とあって、十分勝負できる位置にいる。
◇鈴木 聡美(すずき・さとみ)1991年(平3)1月29日生まれ、福岡県遠賀町出身の33歳。姉の影響で4歳から水泳を始め、小6のジュニアオリンピックで全国大会初出場(50メートル平泳ぎ予選敗退)。九産大九州から山梨学院大に進学。13年にミキハウス入社。趣味はゲームで、最近は「モンスターハンター」がお気に入り。1メートル68、62キロ。
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