【コラム】海外通信員

グレミオとインテルがジョガンド・ジュント(復興に向けて共にプレーしよう)

[ 2024年5月24日 19:00 ]

洪水の影響を受けたグレミオの本拠「アレーナ・ド・グレミオ」
Photo By AP

ブラジル南部の歴史的洪水にライバル関係を超えた団結

【ブラジル南部を襲った記録的大雨】

 今、ブラジルで大変なことが起きている。南部で2024年4月下旬から記録的な大雨が降り続き、5月に甚大な被害をもたらした。特に、最南端の州であるリオ・グランデ・ド・スール州は洪水や土砂崩れによって、死者150人以上、行方不明者100人以上、被災者200万人を超える規模の災害が発生。ブラジル史上最悪の水害となってしまった。家やマンションの浸水で、電気、水道が無く家に帰れない人が23万人余りいる。

 また、サンタカタリーナ州やパラナ州でも大規模な洪水が発生し、都市部だけでなく、農村地帯も広く浸水被害を受けている。被害の状況は数万棟の家屋が全壊・半壊し、橋や道路、鉄道などのインフラにも大きな影響を与えている。多くの住民が家を失い、避難生活を余儀なくされているのだ。ブラジル政府は被災地への支援物資の輸送や避難住民の受け入れを進めているが、なにぶん広範囲にわたる被害のため、救援活動は遅れている。国際機関や民間団体からも支援活動が行われているが、助けを求める被災者の数が非常に多いのが実情だ。ブラジル政府は、被害に遭った約24万世帯に対して5100レアル(約15万円)を支給すると発表。政府試算によると救済コストは約12億(366億円)レアルになる。

 農業生産や観光業への影響も甚大で、ブラジル経済全体への影響も懸念されている。南部はブラジルの食糧庫とも呼ばれ、牧畜、アグロビジネスの中心地なだけに、数ヶ月後の農業生産に影響が出てくることも、被災地だけでなく国規模で心配されるところだ。

 ちょうどこの5月に岸田首相がブラジルを訪問していたが、日本政府はJICA(国際協力機構)を通じて、緊急援助物資(浄水器)を供与した。また、東京海上日動火災保険株式会社などブラジルで現地法人のある日本企業が義援金を寄付している。

 被災地の復旧には長時間を要するとみられ、国内外からの継続的な支援が必要とされている。

【サッカー界からのムーブメント】

 サッカー界からも声が上がっている。すぐに動いたのはネイマールだった。自家用ジェットを使って支援物資を大量に運び込んだ。また、ロナウジーニョやカフーはじめセレソンのレジェンド達がマラカナンスタジアムでチャリティゲームを開催し、チケットの売り上げを募金し、物資を送ろうとしている。

 リオ・グランデ・ド・スール州の人のことをガウーショと呼ぶが、ロナウジーニョ・ガウーショはまさにここの人。彼が育った街は州都ポルトアレグレで、ロナウジーニョは街が誇る二つの名門クラブ、グレミオとインテルナシオナルのグレミオ出身だ。

 そして、この2クラブはブラジルでも有数のライバル関係にあり、ポルトアレグレ市ダービーは『グレナウ』と呼ばれる。ブラジル名物のクラシコのひとつだ。100年に渡るライバルの歴史があり、グレミオは1983年にトヨタカップ優勝、インテルは2006年にクラブW杯優勝と両者共に世界覇者の称号を持っている。常に激しいライバル心をぶつけ合ってきたクラブなのだ。

 今回の洪水により、グレミオもインテルナシオナルもホームスタジアムの浸水被害に遭い、ピッチの芝生は全滅。ピッチやその他の影響を受けたエリアの完全な復旧には、天候や修復作業によるが、この先数ヶ月かかる可能性がある。七十人余りのクラブの職員達も被災者で家や持ち物を失ってしまったという。

 CBF(ブラジルサッカー連盟)はこの状況に対し、2チームに関しては現在行われているブラジル全国リーグとコッパ・ド・ブラジルの試合を延期することを決定。

 そして、100年のライバルがこの困難に立ち向かうため、ライバル関係を超えたガウーショ同志の絆で団結することにしたのだ。州政府と2クラブが立ち上げたプロジェクトの名前は『ジョガンド・ジュント=復興のために一緒にプレーしよう』だ。ライバル関係は一旦置いておき、ガウーショ同士がガウーショ達のために手を取り合って被災者救済に乗り出した。資金を集め、避難所への食料や物資の提供、被災者への心理的な支援、復旧作業へのボランティア派遣などを具体的に実施していく予定。

 サッカークラブが地域社会の中でスポーツ分野に限らず社会活動でもリーダーシップを取り、社会変革の担い手としての役割を担うことはとてもブラジルらしく、復興に大きな団結力とモチベーションを与えることになるだろう。世界一を成し遂げた不屈の勇気とスピリットを持つ2クラブが復興への象徴になることがガウーショたちの希望となり、ブラジル全土から応援の声が寄せられている。

 『共に力を合わせて』困難な状況に直面したとき、人はそれまでの確執や競争心を乗り越えて、互いに助け合い、希望を失わずに行動することができれば、必ず乗り越えられる。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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