追悼連載~「コービー激動の41年」その103 複雑な「オニール家」に漂う愛
シャキール・オニールの家系と家族構成は、コービー・ブライアントよりも複雑だ。44歳にして初めて実父のジョー・トーニーさんに会ったこともその一つだが、現在の「オニール家」もすべてを理解するにはかなりの説明が必要である。
公開されている1枚の写真がある。2013年に他界した養父のフィリップ・ハリソンさんは写っていないが、かなりの近影だと思われる。フレームの中にいるのはオニールを含めて9人。実母で、トーニーさんにとっては前妻となるルシールさんはすぐに確認できる。さらにオニールの前妻で2002年から09年まで籍を入れていたショーニーさんがいて、元恋人のアーネットさんとの間にもうけた長女のターヒラーさんが写っているので、この3人だけでも説明がやっかいだ。
マイルズくんはショーニーさんの連れ子。そして残りの4人がオニールとショーニーさんとの間に生まれた子供たちだ。一番有名なのは20歳になったシャリーフでルイジアナ州立大に在籍。オニールの後を継いでNBA選手になれるかどうかが注目されている大学バスケットボール界のトップ選手だ。次女はアミラーさん、次男はシェイキアーくんで三女がミアラーさん。母、前妻、前妻の連れ子、元恋人の子ども、前妻と間の4人の子ども…。これが今の「オニール家」である。
次男シェイキアーくんのスペルは父親の「SHAQUILLE」に似ていて「SHAQIR」。どちらもアラビア語の「SAGHIR(サギール=小さい)」に由来すると思うのだが本当のところはよくわからない。アラビア語の名前では「SHAKIR」となり発音はシャーキル。この家族にはアラビア・テーストが満ち溢れている。
オニールの本名は「SHAQUILLE RASHAUN O’NEAL」で、ファーストネームとミドルネームをつなげた意味はアラビア語で「小さな勇士」と紹介されているが、「RASHAUN」はアフリカ系アメリカンの間で「輝く光」という意味があるのでそれが転じて「勇士」になったとも受け取れる。養父ハリソンさんのルーツはジャマイカだが、米国ではイスラム教の信徒(ムスリム)。だからそれが息子や孫たちの名前がアラビア系になった発端だったと思う。
ブライアントの悲報を受け取ったときには甥っ子たちも自宅にいたというので、とにかくオニールは面倒見がいい。自分の生い立ちが恵まれたものではなかっただけに、子どもに対する愛情は人一倍なのかもしれない。
そのオニールの性格がにじみ出ていたのがブライアントの葬儀でのスピーチ。4分が経過して最後に口にした言葉だった。次女ジアナさん(享年13)も父親とともにヘリコプターの墜落事故で亡くなったため「ブライアント家」はバネッサ夫人のほかに、長女で高校のバレーボール・チームの選手でもある178センチのナタリアさん(17)と、2016年12月5日生まれの三女ビアンカちゃん(3)、そして2019年6月21日に生まれたばかりの四女キャプリちゃんの4人となった。
オニールはバネッサ夫人へ哀悼の意を示し、そして天国にいるブライアントに「ナタリア、ビアンカ、キャプリに必ず君のムーブ(テクニック)を教えるよ。心配しなくていい。絶対にフリースローは教えないからね」と約束。4分間のスピーチにこめたオニール渾身の?ジョークはこれが3つめだったが、笑いとともにオニールのやさしさが伝わってきた瞬間でもあった。オニールのフリースロー成功率は現役通算(19シーズン)で52・7%。50%未満となったシーズンは7回もあった。2本打って1本を外し続けたNBA人生。しかし216センチ、154キロの巨体に張り付いていた“最大の弱点”は、ブライアントの葬儀では悲しみをやわらげる魔法のような言葉に生まれ変わっていた。
ブライアントは引退後、かつて犬猿の仲だったとされているオニールについてこう語っている。
「自分がひたすらボールを持って攻めたのは、相手に自分がフィニッシャーと思わせるため。相手を引きつけてそこでシャック(オニールの愛称)にボールを渡せばもう怖いものはなかった」
かつてレイカーズのチームメートから「あいつはパスをしない」と文句が出て、オニールから「もっとチームワークを考えろ」と説教されたブライアント。実はそれこそがオニールを生かす方法だったことは、ずいぶんと時間が経過したあとに明らかになった。
コービー&シャック。性格は対照的だが、間違いなくそれはNBA史上に残る最も機能的でダイナミックなタンデム(二人乗り)だった。(敬称一部略・続く)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には一昨年まで8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは2013年東京マラソンの4時間16分。昨年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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