「うちの子」世界へ羽ばたけ!横浜FC マルチクラブ体制で育成に新風
J2横浜FCがマルチクラブオーナーシップ(MCO)に取り組んでいる。2022年11月、ポルトガル2部UDオリヴェイレンセの経営権を取得。23年8月にはユース出身でプロ契約したU―19日本代表の永田滉太朗(18)が海を渡り、同クラブへ期限付き移籍した。
Jリーグのクラブとして唯一、海外クラブも運営する横浜FCはどんな未来を描くのか。新規事業開発室の松本雄一部長は3つの視点から次のように述べた。
「短期的には、子供たちにとって海外挑戦という夢をかなえられるクラブを目指しています。中期的には、欧州に渡った選手が成長して移籍金、連帯貢献金が発生することで、新しいビジネスのインパクトを与えられる可能性がある。そして長期的な視点で言えば横浜FCがレベルアップし、日本のサッカー界に貢献するということです」
MCOとは、1つのオーナーが国籍の異なる複数のクラブを保有・運営する仕組み。横浜FCでは欧州トップリーグへの登竜門となるポルトガル2部のクラブを保有したことで、10代の若い選手が海外へ挑戦しやすくなった。「若いうちに5大リーグのスカウトから注目される機会が増える。そうすれば欧州のビッグクラブへとステップアップする可能性が広がります」と松本氏は指摘する。
選手のキャリアアップは、クラブ経営にも多大なメリットになる。国際サッカー連盟(FIFA)が定める国際ルールで、移籍した選手を12~23歳まで育てた全てのクラブに移籍金の計5%が連帯貢献金として配分される。育成の年齢に応じてその割合が異なっており「例えば、オランダ1部スパルタ・ロッテルダムの斉藤光毅選手は横浜FCのユース出身で、20歳の時にベルギーのロンメルへ移籍しました。その時も連帯貢献金が発生します。彼は13歳から20歳の間に横浜FCに在籍していたので、移籍金の3%強です」と説明。斉藤の移籍によってもたらされた移籍金を活用し、ジュニアユースとユースの練習場の人工芝を全面リニューアル。横浜FCにとって選手の海外移籍が、育成強化策に結びついた初の事例となった。「今の収益構造は広告収入、入場料収入、グッズなどの物販収入の3本柱ですが、これに加えて移籍金と連帯貢献金を4つ目の柱に据えていく。そのために選手の育成プランをしっかりと積み上げていかなければ」と強調した。
わざわざ海外に行かなくても、横浜FCのユースからプロ契約してJリーグで経験を積めばいいのではないか。若い才能が欧州へ流出して、クラブの弱体化につながるのではないか。こうした疑問について松本氏は、18歳で海を渡った永田の例を挙げて「ポルトガルは日本よりはるかに公式戦でガチンコの実戦経験を積める場所です。しかも18歳の時点で海外に行くことに凄く意味がある」と語る。
日本では高卒1年目のプロ選手は「天皇杯やルヴァン杯で10分程度しか出場できないケースも目立つ。クラブの考え方によって考え方は様々ですが、1年間ずっと練習相手だけになってしまうことだって珍しくありません」と松本氏は言う。しかし、欧州リーグにはU―19リーグがあり同世代の若き才能たちが実戦で切磋琢磨している。オリヴェイレンセについて言えば、今後U―23リーグに加盟する予定でさらに試合の出場機会を得られることになる。「海外を経験して一回りたくましくなった選手が1年や2年で横浜FCに戻ってきたとしても、同世代の選手に比べてプロ入り後の実戦経験が違うので活躍の期待値は上がります。実力をつけて、海外へ再挑戦することもできる。その時にはすでに海外で“名刺”を配っている状態になっています」
マルチクラブの利点を生かして同じ運営母体の元、選手が若いうちから貴重な実戦経験を積み重ね、成長する。こうした選手の成長過程を、横浜FCは「うちの子育成」と称し、サポーターと体験を共有していきたいという。
早ければ2月から資金面で協力を呼びかけていく。オリヴェイレンセがU―23リーグに参加するための運営費は「年間数千万円ほど必要になる」と松本氏。ポルトガルにトレーニングセンターを建設したり、さらに横浜FCアカデミー向けの語学教育や海外遠征など育成年代の環境整備に充てるため、目標額を5000万円に設定してクラウドファンディングを始める予定だ。
「18~23歳の一番ポテンシャルが開花する時期に、日本でサッカーをやっている若い選手たちの海外挑戦へのルートを広げていく。これが日本サッカー全体のレベルアップにつながると我々は信じてこれからもMCOを進めていく」と松本氏。世界のサッカー界でトレンドになっているMCO。日本でも拡大するか注目される。
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