「どうする家康」“異色の本能寺”際立つ明智・酒向芳の怪演 演出絶賛「腐った魚…にポロッと地元の言葉」

[ 2023年7月27日 11:00 ]

大河ドラマ「どうする家康」第28話。織田信長を討った明智光秀(酒向芳)は徳川家康への“鯉の恨み”をぶちまける(C)NHK
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 嵐の松本潤(39)が主演を務めるNHK大河ドラマ「どうする家康」(日曜後8・00)は今月23日、第28回が放送され、中盤のクライマックスにして戦国最大のミステリー「本能寺の変」(天正10年、1582年)を迎えた。「本能寺の変」が描かれる大河は18作目だが、今作は織田信長と徳川家康の絆を全面に押し出した異色の結末。俳優の岡田准一(42)が初回から強烈なインパクトを刻み、ドラマを牽引した孤独なカリスマの最期に、SNS上には「岡田信長ロス」が広がった。同回を担当したチーフ演出・村橋直樹監督に、怪演が光る明智光秀役の俳優・酒向芳(64)の魅力、撮影の舞台裏を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 「リーガル・ハイ」「コンフィデンスマンJP」シリーズなどのヒット作を生み続ける古沢良太氏がオリジナル脚本を手掛ける大河ドラマ62作目。弱小国・三河の主は、いかにして戦国の世を生き抜き、天下統一を成し遂げたのか。江戸幕府初代将軍を単独主役にした大河は1983年「徳川家康」以来、実に40年ぶり。令和版にアップデートした新たな家康像を描く。古沢氏は大河脚本初挑戦。松本は大河初主演となる。

 第28回は「本能寺の変」。織田信長(岡田准一)が本能寺へ入ったという報に、徳川家康(松本潤)は堺へ向かう。堺の商人たちと手を結び、家康は信長を討った後の体制も盤石に整える。しかし、そこへ突如、お市の方(北川景子)が現れる。お市から知られざる信長の思いを聞かされ、家康は戸惑う。信長を討つなら今夜しかない――。家康は一世一代の決断を迫られる。そして、迎えた夜明け。本能寺は炎に包まれ…という展開。

 一晩中、悩み抜き、家康は「情けないが、決断できぬ」「ここまで、精いっぱいの用意をしてきたが、今のわしには、到底成し遂げられぬ。無謀なることで、皆を危険にさらすわけにもいかぬ。すべては、すべては我が未熟さ。すまぬ」と涙。しかし、その間、千載一遇のチャンスに、明智光秀(酒向芳)は「時は今 雨が下知る 五月かな」。首尾よく本能寺を襲撃。家康は先を越されていた。

 茶屋四郎次郎(中村勘九郎)が堺に駆けつけ、家康に「信長、討ち死に」の報。一同は絶句した。

 明智は香をかぎ、悦に浸る。信長の長男・織田信忠も討ち取り「残るは家康だけ。断じて逃すな!できれば生け捕りにせえ!あんのくそたわけの口に、腐った魚を詰めて殺(ころ)うちゃる!」――。安土城の酒宴“鯉の恨み”は忘れない。

 大軍勢の光秀に狙われた家康は、家臣団と堺から逃走。山道、敵に相対しながら、脳裏には信長との思い出が甦る。炎に包まれた本能寺。信長は「家康…どこじゃ…どこにいる…家康…」。家康も「信長…信長~!」と呼応。「あなたが、いたからじゃ。あなたに地獄を見せられ、あなたに食らいつき、あなたを乗り越えねばと」「弱く、臆病なわしが、ここまで生き延びてこられたのは、あなたがいたからじゃ」「さらば、狼。ありがとう、我が友」――。信長は燃え盛る炎の中へ消えていった。

 主人公・光秀と信長の友情を描いた2020年の大河「麒麟がくる」も新解釈だったが、今作は家康&信長の関係を初回から「白兎と狼」として濃密に紡いできた。これが“独創的な本能寺”に昇華した。

 村橋監督は「2人の関係は『ブロマンス』(男性の熱い友情、精神的なつながりを意味するBrotherとRomanceの合成語)だなと思います。中国の故事だと『刎頸の交わり』。裏切りが日常茶飯事の戦国時代において、信長と家康の同盟が約20年も続いたのは珍しいことで、2人の間には単なる利害関係だけじゃない何かがあったのかもしれません。2人の個人的な感情を軸に、社会的大事件である本能寺を描き切るのも面白いと思いました」と振り返る。

 その分、信長と明智のラストの対峙は空疎。「お互い、言葉は投げ合っていますが、ある種、会話になっていませんよね。信長は自分を討ちにきたのが家康じゃなかったことに失望し、明智も自分が天下を獲った後の輝かしい未来しか見えていない。お互い、眼中になく、通じ合うものもない。そこに、逆に心を動かされました」と明かした。

 信長「(障子を開け)家康よ(とニヤリ)。(明智と分かると、うなだれ)何だ、おまえか」

 明智「貴公は、乱世を鎮めるまでのお方。平穏なる世では、無用の長物。そろそろ、御役御免で…」

 信長「やれんのか、金柑頭!おまえに俺の代わりが!」

 明智「くそたわけが。信長の首を獲れー!」

 「今回の明智は、もちろん信長や家康への恨みはありますけど、言ってみれば、条件が揃ったので『今ならやれる』と計算高く実行しただけのようなもの。信長と家康のブロマンスな世界と、信長と明智のドライな関係との対比が、酒向さんのお芝居によって一層、際立ちました」

 酒向の出身地も、村橋監督の母方のルーツも偶然、明智光秀生誕の地(岐阜県)のほど近く。「そんな地元話をしている中で、本能寺の変を成した直後のシーンで『あんのくそたわけの口に、腐った魚を詰めて殺(ころ)うちゃる』と、地元の言葉が混ざるというちょっとした遊びを、酒向さんが提案してくださいました。京で政に精通していることを武器に出世した男が、信長という抑圧がなくなってポロッと地元の言葉が出てしまう。しかも、高貴にお香を嗅ぎながら。凄く人間くさい明智光秀だと思いませんか」と酒向のアイデアに感謝した。

 第26回「ぶらり富士遊覧」(7月9日)。家康が信長の機嫌を取ろうと踊る“えびすくい”の最中も主君の顔色を伺い、信長が笑うと自分も声高に笑い出す演技も「本当に素晴らしかったと思います」と称えた。

 「『麒麟がくる』以来、聖人のような人物像も期待される中、器の小さい明智光秀に徹してくださったことが、より信長と家康のドラマを引き立てている。分かりやすいヒール役、引き立て役でありながら、それでいて類型的にも嘘くさくもならない。それが(21年の大河)『青天を衝け』の悪代官・利根吉春に引き続き、悪役を酒向さんにお願いした理由かもしれません。娘さんには『どうしてお父さんは悪い人ばっかり演じるの?』と言われてしまったそうですが、明智役が酒向さんで、本当にありがたかったですね」

 信長の孤独は、第25回「はるかに遠い夢」の佐久間信盛(立川談春)によっても表現された。佐久間は瀬名(有村架純)と松平信康(細田佳央太)の自害を報告し「よかった…よかった」と安堵したが、信長は「何がよかった?ああ?二度と顔を見せるな」と叱責した。

 「談春師匠が『ここは、信長のことをちゃんと見限って去りたい』と。僕もその通りだと思って、談春師匠のプランを頂きました。信長が討たれたと知った秀吉(ムロツヨシ)も泣きわめきましたがが、すぐに切り替えて。そういう意味で家臣との人間関係を築けなかった信長と、家臣団と一緒に生き抜いてきた家康も対照的に描ければと思いました」

 ◇村橋 直樹(むらはし・なおき)2010年、中途採用でNHK入局。初赴任地は徳島放送局。13年からドラマ部。演出の1人を務めた18年「透明なゆりかご」(主演・清原果耶)、19年「サギデカ」(主演・木村文乃)が文化庁芸術祭「テレビ・ドラマ部門」大賞に輝いた。大河ドラマに携わるのは14年「軍師官兵衛」(助監督)、17年「おんな城主 直虎」(演出、第28回・第32回を担当)、21年「青天を衝け」(セカンド演出、全41回中9回を担当)に続き4作目。今作は第2回「兎と狼」、第3回「三河平定戦」、第4回「清須でどうする!」、第11回「信玄との密約」、第12回「氏真」、第18回「真・三方ヶ原合戦」、第25回「はるかに遠い夢」、第28回「本能寺の変」を担当している。

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