渡辺王将 3連敗でカド番に 微小な誤算 待望の1勝見えてきたところで攻守逆転

[ 2022年1月31日 05:30 ]

第71期ALSOK杯王将戦第3局第2日 ( 2022年1月30日    栃木県大田原市・ホテル花月 )

第3局第2日、熟考する渡辺王将
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 渡辺明王将(37)は健闘むなしく、カド番に追い込まれた。難解な中盤から一歩抜け出した終盤は形勢の針が自身に傾きながら、藤井聡太竜王(19)の必死の抵抗に遭い、たまらず緩手を重ねて逆転負けを喫した。4連覇達成には、もう一つも落とせない。 動画で見る・第71期ALSOK杯王将戦七番勝負第3局ダイジェスト

 寒がりで知られる渡辺王将だが、自身側にあるヒーターのスイッチを入れることは終日なかった。マスクに半分隠れた顔がほのかに赤い。脳内に詰まった細胞を総動員して最善手を探ったが、最後は負けを認めざるを得なかった。

 「今日(30日)の昼のところは(藤井の69手目)▲5八王であまり手がなくなってしまった。(直前の)△3二王でどうだったかな、と思って指してました」

 かすかな苦しさを胸に秘め続けた中盤戦。それでも形勢的には全くの五分、いやむしろ押し気味で進めていたのは確かだ。第1日の進行については「一局になったかな」と手応えまで明かす。藤井が仕掛けた地下鉄飛車の構想を、中央から圧力をかけ続けることで企画倒れに。終盤の入り口ではむしろ勝利に一歩一歩近づき、シリーズ1勝目は現実になりかけていた。

 第三者的には有利な状況に置かれていたにもかかわらず、肝心の本人が指しにくさを感じていたのはなんとも皮肉だ。盤の中央に敵味方の駒が入り乱れ、先手から壮絶な攻撃を仕掛けられる。ここで76手目に放った△4二桂(第2図)。自陣にくせ者の駒を配置する好手にも見えたが、感想戦では「4二桂じゃしんどいですか。これじゃ何かな…と思って」と複雑な心境を吐露した。さらに勝負の分岐点とおぼしき96手目△7三角に代えて△5六桂を藤井から指摘されると「…5六桂でしたか…」と短く絶句。ところどころで微小な誤算が発生し、気がつけば攻守はスルリと入れ替わっていた。

 これで開幕3連敗。王将戦7番勝負7度目の登場で初めて味わう屈辱だ。過去の王将戦で3つのビハインドを逆転した例は皆無。藤井相手のタイトル戦連敗は7に伸びてしまった。白星一つも挙げられず瀬戸際に立たされる絶体絶命の大ピンチで迎える次局も厳しい戦いが予想されるが、そこは戴冠歴29期を誇る王者。「やることは変わらない。次が特別なにかということはないので」と矜持(きょうじ)に満ちあふれた決意を吐いた。

 思い起こせば08年暮れの第21期竜王戦。羽生善治名人(当時)に0勝3敗と追い込まれた渡辺は根性の4連勝で棋史に残る大どんでん返しを実現させた。

 奇跡よ、再び。 

 《あるか大山超え》王将戦で開幕3連敗した棋士が4連勝した例はない。大山康晴王将が第10期(1960年度)、二上達也八段相手に2連敗後4連勝したのが開幕からの連敗から防衛した唯一のケース。渡辺が3連敗から逆転で防衛を果たした場合、大山を超える奇跡となる。

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