【内田雅也の追球】風にも勝った「フライ投手」

[ 2024年5月13日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神1-0DeNA ( 2024年5月12日    横浜 )

<D・神>9回2死、牧の捕邪飛で試合終了(投手・才木)(撮影・須田 麻祐子)
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 阪神・才木浩人はフライボールピッチャー(フライ投手)である。フォークやスライダーもあるが、150キロ台速球を中心に球威で押し、凡飛に打ち取る。

 登板前までの今季、フライアウト(AO)43、ゴロアウト(GO)27でGO/AO比率は1以下の0・62。リーグでも屈指の低い数値だった。

 相手DeNA先発の大貫晋一はグラウンドボールピッチャー(ゴロ投手)だ。シュート(ツーシーム)で詰まらせ、沈む球でバットの下っ面に投球が当たり打球が転がる。GO/AO比率は38/38で1・00だった。

 この日も横浜スタジアムは強風が吹いていた。主に右翼に向け、打者にとっては追い風として吹いていた。前日はこの風に乗って、外野頭上を越える長打や本塁打攻勢を受け、大量7点リードを逆転負けしている。

 本塁打を浴びる危険性が高いのはフライ投手の方だ。試合開始前は才木の一発被弾が心配材料でもあった。

 ところが、才木は風にも負けなかった。速球の球威が勝り、凡飛、ポップフライばかりで風に乗るような大飛球はなかった。多くは高めの速球で打者をねじ伏せていた。

 監督・岡田彰布は「風で高めがちょっと伸びてると言うとったな」と興味深いことを言った。上空は打者に追い風だが、地上は投手への追い風だったのか。向かい風で速球が浮き上がる感じだったのかもしれない。

 9回裏もアウトは3本ともフライだった。2死二塁、一打同点のピンチも牧秀悟を真ん中高め速球で捕邪飛に取り、フィナーレを飾った。

 フライアウト11にゴロアウト9だった。8回まで投げた大貫はゴロアウト17を数えフライアウト2。互いに特徴を出し切った好対照の投手戦だった。才木はフライ投手が不利なホームラン風のなか価値ある快投だった。

 打線の援護はわずか1点。3回表2死、才木自身が0ボール2ストライクから4連続ボールで出た四球から、短長打が出て生還した。同じ完封でも大リーグでは特記される1―0完封だった。

 前日の悪夢を振り払う投球に岡田は「負け試合の後、才木で勝つことが多いよな」と話した。今季は開幕連敗後の初勝利など4度目の連敗ストッパーとなった。敗れれば、あの悪夢がよみがえるなか、窮地を救う快投だった。 =敬称略= (編集委員)

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