【内田雅也の追球】「無理しない」のも勝負

[ 2024年4月7日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4-3ヤクルト ( 2024年4月6日    神宮 )

<ヤ・神>7回、島本(左)は村上を一ゴロに仕留めた(撮影・須田 麻祐子)
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 これが島本浩也である。4―3と1点差に迫られた7回裏2死三塁、村上宗隆を一ゴロに打ち取った。球速は140キロ台そこそこの直球で、しかもど真ん中。捕手のミットは内角に構え、甘くなったのだろうが、それでも差し込んでいた。

 直球、スライダーを内外角に配し、フルカウントからの勝負球だった。球威や制球以上に持ち前の度胸で向かっていく姿勢が勝っていた。

 連日の1点差で今季初の連勝を飾った阪神は得点源の村上を1安打、打点0に抑え込んでいた。抑えたと言うよりも、打たせなかったと言うべきかもしれない。

 前夜は4四球と併殺打。先発・青柳晃洋は昨季9打数4安打2本塁打と苦手で、2四球と無理な勝負は避けていた。この日も先発・大竹耕太郎が1回裏2死二塁、一塁が空いている場面で慎重に内外角を突き、結果はストレートの四球だった。

 何も真っ向挑むばかりが勝負ではない。本来は政治評論家のジョージ・F・ウィルは『野球術』(文春文庫)で<「無理するな」は野球国の憲法第一条だ>と記した。

 大リーグ通算478セーブのリー・スミスの話が基になっている。1988年、カブスからレッドソックスに移籍後初勝利を飾った試合。ブルペンからマウンドに向かうとき、7歳ぐらいの少年が身を乗り出して「リー、無理しちゃだめだよ」と叫んでいた。「勝てたのは外野席にいた坊やのおかげだよ」。無理せず痛打を回避していた。

 ウィルは<自分の能力を超えることをやろうしてはいけない><彼ら(メジャーリーガー)は、自分に何ができて何ができないかをよく知っている>と記している。

 阪神監督・岡田彰布がクローザーの岩崎優について「ヤバイと思ったら歩かせとる。うまいことな」とたたえたことがあった。昨年7月2日の巨人戦(東京ドーム)で、1点リードの延長12回裏、一発警戒で低めを突いて2四球を与えたが、無失点でしのいだ。

 牛島和彦が横浜(現DeNA)監督に就いた直後、投手陣に「四球を恐れるな」と語ったのを思い出した。「たとえ満塁にしても本塁さえ踏ませなければいいんだ」

 阪神投手陣の今季の与四球は目下27個でリーグ最多。リーグ最少だった昨季を思えば確かに多いが、大けがをしない、意味ある四球も結構あるとみている。 =敬称略= (編集委員)

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