【内田雅也の追球】口にせずとも「一丸」

[ 2024年2月28日 08:00 ]

阪神キャンプ打ち上げの総括会見で笑顔を見せた岡田監督(撮影・椎名 航)
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 渡辺伸彦が沖縄・宜野座村野球場にやってきた。記者席に座ろうとすると「ホイ!」と大声をかけられて驚き、座席の端で右足向こうずねをしたたか打った。

 ナベちゃんだった。元阪神の投手。1989年入団当時から知る。1年目の安芸キャンプ中盤のブルペン、それまで控えていたカーブを初めて投げ、見た時の驚きを今も忘れない。1度浮き上がってから落ちるようなブレーキだった。

 渡辺は岡田彰布をよく知る。阪神でも、ともに移籍したオリックスでも一緒だった。引退後は阪神打撃投手として支え、2019年限りで退団した。今は高松で「料理人の勉強、いや、修業をしています」。魚の三枚おろしも平気らしい。

 岡田にあいさつを終えた渡辺は「岡田さん、名将でした」と言った。「押しも押されもせぬ実績を作りましたから。もちろん今年も勝ちたいんでしょうけど、何か余裕が感じられました」

 確かにキャンプ打ち上げの総括会見でも岡田には余裕が感じられた。監督に復帰した昨年のキャンプで感じた不安とは明らかに違っている。180度異なる心境だろう。

 「それから、岡田さんは基本的にやさしいですからね。そのやさしさをみんな感じているんじゃないですか」

 時に強烈で、歯に衣(きぬ)着せぬ発言で周囲を凍らせる岡田だが心根は温かく、やさしい。渡辺はよく分かっている。

 監督となってからは「一線を引く」と選手とは会食など全くしないが、その分、打撃投手など裏方に慰労のごちそうをしたり、気を配る。

 「チーム全員が同じ方向を向かんと優勝なんてできんよ」という信条がある。ただし、照れ屋の岡田はそれを「一丸」だとか「一体感」だとか口にしたりしない。言葉にせずとも分かってもらえるように仕向けている。

 今年もキャンプイン前日、「去年よりも勝ちたい」と口にしたが「あれ以降、そんな話はしていない。みんな分かっているよ」と信頼している。

 キャンプ中、競争で2軍に落ちた選手も数人いた。ただし岡田は「一年を通じて調子悪いなんてことないやろ。2軍に落ちた選手も含めて、戦力やと思っている」と、傷心のキャンプを過ごした選手たちを思いやった。

 ナベちゃんの言うように岡田は「やさしい」。それが口にはせずとも「一丸」を醸し出している。 =敬称略= (編集委員)

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