栗山英樹氏 秋の虫の声のように子供たちの遊ぶ声も心地いい

[ 2023年9月29日 05:35 ]

栗山英樹氏の直筆メッセージ
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 今年3月のWBCで世界一に輝いた侍ジャパン前監督の栗山英樹氏(62)による連載「自然からのたより」第4弾は、秋の虫たちの鳴き声から思うことについて。秋を感じさせる虫たちの声も聞く者の心によっては、心地よくも不快にも感じる。今、社会では子供たちが遊ぶ声はどう聞こえているのだろうか。虫たちの声が季節を彩る美しい音色であるように、子供たちの声も大人が優しく受け入れてほしい。

 長かった残暑がようやく収まった。自宅のある北海道栗山町はまだ緑が残り、紅葉はもう少し先だ。あと1カ月くらいすると、栗の樹ファームの木々も赤く染まってくる。だけど、秋の気配は確かに漂ってきている。

 それを感じさせてくれるのが虫たちの鳴き声だ。異常な暑さだった夏に聞こえたセミやカエルの鳴き声が、秋の虫たちの鳴き声に変わってきている。コオロギや鈴虫たち。その音色はいつの年も心穏やかにしてくれる。

 ただ、その音色も聞く人の心によって大きく変わってくる。ドイツの有名な音楽家、パウル・ヒンデミットはこう言っている。

 音楽も、秋の虫たちの鳴き声も、心地いいかどうかは受け手次第ということ。人によっては、耳障りな音になるかもしれない。同じことが、今の日本社会で言えるような気がする。子供たちが楽しそうに遊ぶ声は、大人たちにどのように聞こえているのだろうか。

 子供たちが屋外で思い切り体を動かす。それは心身を強くする大切なことだ。それが最近では、子供たちの遊ぶ声に苦情が寄せられると聞く。公園などでも、思い切り声を出して運動したりすることができない場所が多いそうだ。思えば子供の頃、東京都小平市の実家の前には空き地があり、よく遊んだ。大きな声を出しても怒られた記憶はない。大人たちが優しく見守り、地域で子供たちを育てていた。それは、日本の伝統でもあった。

 WBCが終わってから、本当に大切なものは何なのかを自分に問いかける瞬間が凄くあった。気がつかなければ素通りしてしまうものに気付き、ハッとさせられる。サンテグジュペリの「星の王子さま」にもある。「大切なことは目には見えない」と。秋の虫の声を心地よく聞き、子供たちの遊ぶ声の大切さを改めて感じた。

 次の世代へ向かって元気に走り回り、子供たちが未来をつくってくれる。そう心に感じて聞けば、彼らの遊ぶ声は心地いい。秋の虫たちの音色のように。

 ≪12月は縁起いい“紅白の景色”に≫栗の樹ファームの秋が深まるのは、10月下旬から11月にかけて。11月初旬には写真のように鮮やかな紅葉が広がる。「でも、紅葉の時季は短く、12月になると雪が降る。ちょうど紅葉と雪で、景色が紅白になって凄くいいんだよね」。栗山氏はこの紅白の景色が縁起いいと感じ、次の年への意欲をかき立てられるという。

 ▽虫の鳴き声 文部省唱歌「虫のこえ」の歌詞では松虫は「チンチロチンチロ、チンチロリン」、鈴虫は「リンリンリンリン、リインリン」とされ、コオロギは「キリキリキリキリ」とある。虫の声を聞く文化は、日本や中国で古くから継承されており、平安時代には貴族階級が籠に入れて楽しんでいた。中でもコオロギは日本では身近な昆虫で、万葉集にもコオロギを詠んだ歌が7首ある。北海道にはコオロギ、鈴虫が棲息しているが、松虫は本州以南が棲息域とされている。

 ▽パウル・ヒンデミット ドイツの音楽家で、作曲家であり、さまざまな楽器を弾きこなす多才な演奏家としても知られる。1900年代前半にバイオリン奏者として音楽家としてのキャリアをスタートさせ、戦後に演奏活動とともに多くの作曲も手がけた。新即物主義や新古典主義などの作品で、20世紀のクラシック音楽界に多大な影響を及ぼした。

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