【内田雅也の追球】「率先躬行」で思い出す64歳岡田監督の実演守備 基本徹底が導いた阪神の好守

[ 2023年9月9日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4-1広島 ( 2023年9月8日    甲子園 )

<神・広>2回、坂倉の打球をスライディングキャッチする森下(撮影・須田 麻祐子)
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 阪神監督・岡田彰布は勝利後の会見で「たいしたもんやと思う」と選手たちをたたえた。「アレ」が近づく大詰めでも堂々とプレーしていた。

 「オレが監督になって、地道にやることを積み重ね、勝ち星も積み重ねてきたから」と振り返る。選手たちの心の中を推し量り「普通通りにやれば、いい結果が出る。平常心と言うか、自分たちの野球をしたら(勝てる)というのが見える」。

 思い出すのは監督に復帰した直後、昨年の秋季キャンプだ。11月2日の夕方、高知・安芸市営球場サブグラウンドで驚くべき光景を見た。特守の際、グラブを手にした岡田が内野ノックを受けていたのだ。

 当時64歳。阪神監督では就任時最高齢だった。同じ内野手出身の吉田義男も中村勝広も藤田平も和田豊も……誰もやらなかった監督実演による手本だった。

 岡田が示したのは捕球位置と送球に移る足の運び方だった。特別なコツや難しい技ではない。基本的な指導だった。

 岡田野球の神髄がここにある。広岡達朗が著書『巨人への遺言』(幻冬舎)で書いていた。<私が教えてきたのは、高度なファインプレーではなく、ひたすら基本プレーだった>。早大の先輩にならったわけでもなかろうが、岡田が目指したのも基本の徹底だった。

 そんな基本を積み重ねると、この夜のように美技も出る。森下翔太は2回表2死、右翼線飛球を滑り込みながらつかんだ。5回表表先頭の右中間フェンス際大飛球を快走好捕した。木浪聖也は3回表先頭の三遊間ゴロを美技で仕留めている。

 相手のことを書くのは本意ではない。ただ、5回裏の右前適時打は二塁手すぐ右のゴロ。8回裏の1点は2死一塁の長打警戒状況で三塁線をゴロで抜かれたものだった。いずれも止めていれば防げた失点である。

 守備の差。いや、もっと泥くさく基本や定石の差だったと言える。

 きょう9日は名物オーナーだった久万俊二郎の命日だ。2011年、90歳で没した。現役時代から岡田を「将来の監督」と見込んでいた。泉下で監督復帰での快進撃を喜んでいるだろう。

 座右の銘だった「率先躬行(きゅうこう)」「指揮官先頭」を電鉄本社の訓示で繰り返したという。躬行は自ら行うといった意味だ。どこか、昨秋からの岡田の姿勢に通じている。 =敬称略=
 (編集委員)

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