栗山英樹氏 相手に合わせてどんな形にも変化する水 指導者もそうあるべき

[ 2023年8月29日 05:15 ]

栗山町のホタル(諸橋さん提供)
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 今年3月のWBCで世界一に輝いた侍ジャパン前監督の栗山英樹氏(62)による新連載「自然からのたより」の第3弾は、生命をつかさどる水について。スポーツの世界でも指導者は水のような柔軟性が必要だとされる。自宅のある北海道栗山町では、この夏もホタルが舞った。幻想的な夜を演出するホタルの光もきれいな水があってこそ。次の世代へ残していく水を今、守らなければいけない。

 人を生かすためには水のようでなければいけないという。氷は硬くて強い。しかし、指導者としては、相手に合わせてどんな形にも変化する水になる必要がある。巨人を不滅のV9に導いた名将・川上哲治氏は、岐阜の正眼寺という禅寺で修行したとき、そう説かれたそうだ。応用力と柔軟性。それは指導の原理原則でもある。

 上善水の如し
 水はよく万物を利して争わず
 衆人の恵む所に処る

 これは老子の有名な言葉だ。「最高の生き方とは水のような生き方である」という意味で、続く言葉は「水は万物を助け、育て、誰と争うことなく形を変え、自らは低い方へ自然に流れ、そこに身を置く」と水の性質を生き方に例えている。このように、人の生き方にも例えられる水は自然界では絶対なくてはならないものだ。

 この夏、栗山町ではホタルが舞った。例年よりも少し早く、7月中旬ごろから。月明かりの夜に、なんとも幻想的な世界をつくり出すホタルの淡い光。命の尊さを肌で感じ、改めて神様は凄いものをつくったと思う。

 このホタルも美しい水が命だ。幼虫の餌となるカワニナはきれいな水に棲んでおり、日本ではホタルが見られる地域がどんどん減っているという。それは開発などでの環境の改変のほか、河川の汚れによって、餌となる貝類が減少したことも原因と言われている。

 そんなホタルを育む美しい水は、森林によってつくられる。降った雨水が森林を通って浄化され、湧き水となり、渓流へ注ぐ。栗山町にもきれいな水をつくってくれる森林が多くある。かつて世界で栄えた古代文明は、森林が減少したことにより衰退した例があると聞いた。森林がなくなれば、きれいな水も失われていく。自然環境との向き合い方が問われている気がする。

 次の世代にどう残していくのか。ホタルを見て強く感じた。

 ▽ホタル 発光することで知られる昆虫。ホタルの名は「火(ホ)を垂る(タル)」、つまり「火を垂れる」からきているが、光らない種も多い。尾部などに発光器官を持つ種は酵素の化学反応によって光を発する。日本のホタルは一般的にはゲンジボタルで、棲息域は本州、四国、九州。北海道に棲息するホタルで、成虫が発光するのはヘイケボタルだけとされる。

 ▽栗山町のホタル JR栗山駅から車で10分ほどのハサンベツ里山は、近隣では有数のヘイケボタルの棲息地として有名。今年も7月に観賞会が開かれている。85年に国蝶オオムラサキの棲息が発見されたのを機に、同地区で自然環境の保護が進んだ。オオムラサキの棲息域では同町が国内北東限とされる。ヘイケボタルはかつてハサンベツ里山の最奥域に棲息地があっただけだったが、現在は多くの個体数が確認されている。

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