【内田雅也の追球】強さを象徴した9点目 献身的な森下にドン・ベイラーを見た

[ 2023年8月27日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神9―6巨人 ( 2023年8月26日    東京D )

<巨・神>7回、森下は適時打を放つ  (撮影・西川祐介)
Photo By スポニチ

 終盤はやや乱戦模様となったが、接戦になれば負けない。おそらく、阪神の誰もが「今日は勝った」と思いながら試合を進めていたはずだ。

 目立つヒーローは6打点の木浪聖也だが、全員が勝利に向け、最後まで集中力を切らさずに役割を全うしていた。

 その象徴として、最後の9点目をあげたい。7回表、木浪の満塁本塁打が出て8―3となった。直後、投手・桐敷拓馬三振で2死。普通はこれで攻撃終了だろう。

 ところが2死無走者から近本光司、中野拓夢が連続四球を選び、森下翔太が中前適時打して1点を加えたのである。真摯(しんし)な思いが映る、センター返しだった。

 大量にリードしても各打者が雑な打撃や大振りをするわけではなく、悪球には手を出さずに辛抱する。この姿勢である。

 この点を試合後、監督・岡田彰布にぶつけると「そうよ! ほんまになあ」と激しく同意した。「みんな、ちゃんとフォアボール選ぶし、ヒットもきちんと打つしなあ」

 この勝てる姿勢の一例に新人で3番に定着してきた森下をみてみたい。1回表、死球を受けた。今季10個目でセ・リーグで単独最多だ。内角球にも恐れず向かっていく。

 1970―80年代、大リーグ・オリオールズ、エンゼルスなどで活躍したドン・ベイラーのようだ。リーグ最多死球になること実に8度。通算267死球は歴代4位だ。

 ベイラーは味方の投手には内角攻めの重要性を説いた。ロジャー・エンジェルの『球場へ行こう』(東京書籍)にある。「投手の何人かにもっとインサイドを攻めなきゃだめだと言ったんだ。打者をプレートから遠ざけなければ、めちゃめちゃにやられてしまうぞってね」。勝つためには激しさが必要と考えていた。

 森下はただ激しいだけではない。打席での粘り(3回表の遊ゴロは8球目だった)や冷静な選球(5回表の四球)もできる。四球は回の先頭で、逆転への起点となった。

 ベイラーは79年にはリーグMVPとなった。「僕にとって、ベースボールは自分のためにやるもんじゃない」。チームのため、ファンのため……と献身的だ。今の森下も同じことを言うだろう。

 岡田が最近「すごい選手になるんじゃないか」と漏らした。同じ言葉は2004年に聞いたのを思い出す。同じ背番号「1」の新人・鳥谷敬に抱いた予感だった。=敬称略=(編集委員)

続きを表示

「始球式」特集記事

「落合博満」特集記事

2023年8月27日のニュース