76年ぶり阪神の快進撃 出番に飢えた「仕事人」の一打には「それがプロなので」の思いが詰まっていた

[ 2023年8月12日 06:50 ]

セ・リーグ   阪神2-1ヤクルト ( 2023年8月11日    京セラD )

<神・ヤ> 笑顔でナインとハイタッチをかわす糸原(撮影・大森 寛明)
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 阪神の糸原健斗内野手(30)が、11日のヤクルト戦で同点の8回1死一塁から代打で登場し、決勝打を放った。連日のように日替わりヒーローが誕生し、1968年以来55年ぶりで、最長タイとなる夏の長期ロード8連勝。5月の9連勝と合わせてシーズン2度の8連勝は、独走Vを決めた1リーグ時代の47年以来76年ぶりの吉兆となった。両リーグ最速で60勝に到達し、貯金は今季最多更新の22。最短15日の優勝マジック点灯へ、そして18年ぶりアレ(優勝)へ、猛虎の勢いが止まらない。

 この一瞬、この一打のために、全てを懸けてきた。息詰まる接戦をモノにし、チームの8連勝をたぐり寄せたのは「代打・糸原」の快音だった。

 「今日はみんなが粘り強く勝ち越されず、同点で来ていたので。決めるというよりはつなぐという気持ちで」

 1―1の8回1死一塁で打席へ向かった。清水のフォークを捉えた打球は右中間を真っ二つ。一塁走者・木浪を迎え入れる勝ち越し二塁打で、京セラドームの盛り上がりはピークに達した。

 「木浪が(足が)もつれながらも走ってくれたんで、セーフになって良かったです」

 昨年まで二、三塁のレギュラー格としてスタメンに名を連ねてきたが、今年は代打の切り札として、開幕から静かに出番を待つ日々を送ってきた。7年目に訪れた転換期。今までグラウンドで聞いていたプレーボールの声もベンチで耳にし、試合展開を見ながら自身の準備を進める。見える景色も“働き場”も一変し、戸惑うことは少なくなかった。

 「代打は本当に疲れます…。いつ出番が来るか分からないし、下手したら1球で凡退して、自分のその日が終わってしまうかもしれない。最初は何をしたらいいんだ…という難しさがあったので」

 それでもホームゲームでは試合開始7時間以上前にグラウンドに現れて一人、ランニングで一日をスタートする昨年までのルーティンは、変えていない。「どれだけ準備しても出番がないかもしれない。でも、できることはやっておくのが当たり前。それがプロなので」。序盤の好機、終盤の勝負どころ…ルーレットのように“不意”に巡ってくる1打席に全てを懸けているからこそ過程の時間をより大切にしてきた。

 前夜は近本が決勝2ランを放ち、この日はベンチで出番に飢えていた「仕事人」が脚光を浴びた。チームは夏の長期ロード最長タイ8連勝、76年ぶりとなるシーズン2度目の8連勝を決めた。期間中は2試合連続決勝打の選手がいない「日替わりヒーロー」。その勝ち方にチームの勢いが反映されている。

 「連勝していますけど、目の前の1試合を明日からも戦っていくだけ」。背番号33は、代打稼業に生きる自身にも言い聞かせるように表情を引き締めた。一瞬に懸ける勝負はまたすぐにやって来る。 (遠藤 礼)

 ▽1947年の大阪タイガース 1リーグ8チームで優勝を争った。開幕7戦目の4月27日から8連勝と好発進し、5月23日からの11連勝で首位に立って以降は独走態勢。シーズン3度の8連勝以上を記録し最終的に79勝37敗3分け(勝率.681)で、2位・中日に12.5ゲーム差をつけて優勝した。藤村富美男が71打点でタイトル獲得。10完封を含むチーム最多26勝を挙げた若林忠志投手兼任監督がMVPに選ばれた。

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