横浜高、涙の判定 元NPB審判員記者が解説 リクエストがあれば全て解決?

[ 2023年7月26日 21:09 ]

第105回全国高校野球選手権神奈川大会決勝   横浜5―6慶応 ( 2023年7月26日    横浜スタジアム )

<慶応・横浜>9回、丸田の二ゴロで併殺を狙ったが判定はセーフとなり二塁塁審(右)に確認する金刺(撮影・会津 智海)
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 慶応が2点を追う9回無死一塁で大きなプレーが生まれた。二ゴロで「4―6―3」と渡り併殺崩れで一死一塁と思われたが、二塁塁審は「セーフ!」。横浜の遊撃手・緒方漣(3年)がベースを空過していたという判定だった。まさかの無死一、二塁。横浜は伝令を通じ2度も確認を求めたが実らず。慶応が1死二、三塁と走者を進め、打席に立った3番・渡辺千が左翼席への逆転3ランを放った。

 ネット上でも大きな話題となっている「二塁セーフ」の判定。2万7000人もの大観客が来場した状況でなければ、異なる判定が下った可能性もある。

 審判員は目だけでなく音も重要な判定材料とする。併殺の際、二塁ベースカバーに入る内野手はベースをキックするように触塁し送球動作に移る。審判員が目だけで内野手の足とベースとの接地面を確認するのは困難。そのため足でベースをかすめた「チッ」という音を頼りにジャッジする。11年から6年間、NPB審判員を務めた記者も、何度もその音が判断材料となった。

 当該の二ゴロの瞬間、球場は大きな歓声と悲鳴が入り交じった。通常の高校野球ではありえない大音量が「アウトの音」を消したかもしれない。だとしたら、審判員は自らの目だけを信じるしかない。二塁審判員が一番近くで「見た」判定は、セーフだった。

 また、映像で判定を検証するNPBの「リクエスト制度」があったとしても、判定は「セーフ」のままだった可能性が高い。なぜならば、「明らかな間違い以外は審判員の判定通りにする」という原則があるからだ。今回の場合、判定を「アウト」に覆すためには、遊撃手の足と二塁との接地が確認できる映像が必要になる。テレビ放送の映像では明確に内野手が二塁を触れたと確認できる映像はなかった。「~だろう」では判定変更はできない。「絶対に~だ」といえる映像が必要になる。

 ジャッジを生業にしているNPB審判員は判定について、批判されることは宿命だ。だが、アマチュアの審判員は本業がある中で、球児と野球界のために休みをつぶしてグラウンドに立っている。際どい判定がある度、大批判を受ければ誰もグラウンドに立たないだろう。また現在、「ロボット審判」で全国の高校野球を運営できるほどの資金もなければ、ノウハウもない。(柳内 遼平)

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