【内田雅也の追球】「法則」警鐘のバント 「追加点を取らないとやられるぞ」とチームの空気を引き締めた

[ 2023年7月18日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4―1中日 ( 2023年7月17日    甲子園 )

<神・中>4回無死一塁、木浪は投前に送りバントを決める (撮影・奥 調)
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 阪神監督・岡田彰布には経験に基づいた「法則」がある。なかでも「マイナス思考」という岡田らしさが詰まっているのが「4―0は危険」の法則である。

 評論家時代に幾度も聞き、当欄でも幾度か書いてきた。「序盤で4―0リードした試合は危ない」というのである。

 <序盤3回までに4、5点リードした時が危ない>と著書『そら、そうよ~勝つ理由、負ける理由』(宝島社)にも書いている。<チーム内に「もう勝った」という空気が生まれる。これが危ない。「次の1点を失ったら流れが相手に行くぞ」と引き締めるのだが……>緩んだ空気を締め直すことは難しく、逆転負けを食うというのだ。

 この夜も2回終了時点で4―0とリードした。ところが3回表に1点を返された。嫌なムードを感じたことだろう。

 だから4回裏、無死一塁で木浪聖也に送りバントを命じたのである。

 「そうよ。(空気が)緩むからな」と試合後、いつもの甲子園球場内の廊下で言った。追加点がほしかった。「そうや。オレもベンチで“1点1点”と言うとったんや」

 あの送りバントの指示は「追加点を取らないとやられるぞ」と警鐘を鳴らしたのだ。バントという作戦でチーム全体に注意報を出したのだ。

 木浪は8番打者で次は投手だ。無死一塁で打席が回るのは前夜から3度目だった。前夜は0―0の3回裏無死一塁で強攻させて空振り三振。この夜は2回裏無死一塁でセーフティーぎみのバントで送ると投手・西純矢に適時打が出た。そしてこの4回裏は最初から構えた形でのバントだった。

 木浪は初球を投前に転がし、犠打となった。後続がなく、追加点はならなかったが、空気は引き締まったことだろう。

 「今日は緩んでいなかった?」と廊下を過ぎ、階段あたりで問いかけた。「そやな。次の点を取るためのお膳立てすることが大事なんよ」

 追加点は奪えなかったが、好機は作り、攻め続けた。毎回の11安打、それも7回まで毎回先頭打者が安打して4点では拙攻かもしれない。もちろん適時打が出るに越したことはないが、まだ打線はそこまで本調子ではない。それより選手たちが「4―0の法則」に触れた経験が糧となる。

 前半戦終了で短い夏休みに入る。貯金2桁を維持しての首位なのだ。通知表の成績は皆、上々である。=敬称略=(編集委員)

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