【内田雅也の追球】「土日にやるため」の意味 多くの親子連れ、子どもたちが待っている

[ 2023年7月8日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神ーヤクルト ( 2023年7月7日    甲子園 )

<神・ヤ 雨天中止>天候に渋い表情の岡田監督(撮影・岸 良祐)
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 甲子園球場の一塁ベンチの外で阪神監督・岡田彰布が曇り空を見上げている。球団本部長・嶌村聡、チーム運営部長・竹内孝行、阪神園芸甲子園施設部長・金沢健児の4人が話していた。

 グラウンドにはシートが掛けられていた。まだ降り出してはいなかったが、天気予報は雨を伝えている。

 この話し合いの前に、金沢とバックネットをはさんで話した。「5回降雨コールドで勝つという筋書きかな」と問うと、金沢は「そんな都合よくはいきませんよ」と笑った。「試合成立までできるかどうか……」

 甲子園グラウンドキーパーの天気予報はよく当たる。「甲子園の土守」と呼ばれ、戦後から昭和の終わりまで責任者だった藤本治一郎は高校野球期間中、大会役員が神戸海洋気象台に問い合わせると「お宅の藤本さん、どない言うてますか」と逆に質問されたそうだ。

 著書『甲子園球児一勝の“土”』(講談社)にある。雲が北東に流れる「雲の京参り」、南東方面にわく雨雲を言う「辰巳の夕立」など、甲子園の雨を告げる空模様が記されている。漁師だった父親の影響で自然と気象知識が身についた。そんな肌感覚の予報は金沢も受け継いでいよう。

 4人の話し合いで、少しだけ岡田の話が漏れ聞こえてきた。「まあ、土日に(試合を)やれた方がいいからな」

 この日の中止はやむなし。8、9日の試合に備え、シートを掛けたままにしようというわけか。金沢が指示していた。まもなく、場内放送で試合の中止が告げられた。

 「土日にやれた方がいい」のはなぜか。この日は広島からの移動という疲労も考えたのか。2軍から復帰する青柳晃洋を9日ではなく、首位攻防の11日DeNA戦先発に回すことができる。
 そんなチーム事情もあるだろう。ただ、岡田は土日に訪れるだろう、多くの親子連れ、子どもたちを思っていたのではないだろうか。自身は小学生のころ、父親に甲子園に連れられ、タイガースへの愛情が芽生えた。

 「ファンサービスは、勝つこと」と、普段はファン受けする言動を行わない岡田だが、ファンを思う心は人一倍強い。
 「監督なんて、長いタイガースの歴史からすれば、ほんの一コマよ」と言う。「ミスター・タイガース」藤村富美男の言葉「ファンのためにやるのが猛虎魂」を受け継いでいる。 =敬称略=(編集委員)

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