ドラ1候補の中大・西舘勇陽はなぜ、打たれた? 記者驚がく 東都の不思議=怖さ

[ 2023年6月19日 09:00 ]

力投する中大・西舘
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 東都大学リーグ1部に所属する中大の最速155キロ右腕・西舘勇陽投手(4年)は今秋のドラフト1位候補に挙がる逸材だ。

 菊池雄星、大谷翔平らを生んだ岩手の強豪・花巻東出身。強豪ひしめく東都リーグで1年秋にリーグ戦デビューすると、3年秋まで防御率1点台を続けた好投手。それが一転。この春のリーグ戦は防御率が3・43まで跳ね上がった。

 東都リーグを観戦してきた記者のスコアブックに何度も刻まれる150キロ台の直球。縦に落ちるカットボール、パワーカーブも一級品。「なぜ、打たれる…」。この春、記者はネット裏で何度も、何度も、何度もつぶやいた。

 絶対的エースが不振ながら中大は5位で1部残留を決めた。5月30日の駒大戦で勝利した試合後、エースの顔には涙が伝っていた。いつもマウンド上ではポーカーフェイスを貫いてきた男には似合わぬ姿。それだけに「戦国東都」の厳しさを感じた。
 
 春のリーグ戦は終わった。それでも記者の胸には「なぜ、西舘は打たれた…」のモヤモヤが残った。その思いは17日から行われた侍ジャパン大学日本代表選考合宿で解消された。

 「コロナ禍」から脱しようとしている世界。野球界も同じ。19年以来、4年ぶりに合宿での「ぶら下がり取材」が復活した。つまり、練習場の平塚球場から約1キロの宿舎まで記者は一緒に歩いて取材ができるのだ。

 平塚球場に隣接するサッカースタジアムでは午後6時から「2023JリーグYBCルヴァンカップ・Bグループ」で湘南ベルマーレ―川崎フロンターレの一戦が行われる予定だった。サポーターが大挙した公園内。西舘は同じく今秋ドラフト候補に挙がる青学大の右腕・下村と歩いて宿舎に向かっていた。記者は迷わず声をかけた。

 毎日のように通った取材現場で学んだことがある。「本題の前にはコミュニケーションを」。これはマスコミが一方的に考えているテクニックかもしれない。個人事業、公務員を経験してきた私はそう思う。でも、本題からズレるので深掘りはしない。「本当に苦しいリーグでした。この春を経て、今、どんな合宿にしたいですか」

 西舘はどんな時でも謙虚だ。去年まで取材していた花巻東・佐々木麟太郎のように。「あまり気負わず楽しくできればいいと思います」。西舘は笑顔で言った。東都の順位争いはし烈。2部落ちすれば、最上級生である4年生の顔は立たない。記者は聞いた。「リーグ戦の疲れはありませんか」。「リフレッシュして合宿に臨めました」。西舘は笑みを浮かべたままだった。

 「今日も(法大の)篠木が155キロを出していますし、角度を使ったピッチャーもいた。自分はそっちのタイプではないんですけど、自分にないものを学んでいきたいと思っています。本当に凄い投手ばかりなんです。秋までに時間があるので学んでいきたい気持ちがあります」

 「コミュニケーション」を終えて本題突入だ。「僕には分からないんです。150キロのストレート、130キロも出て腕が振れるカーブ、縦に落ちるカットボール。こんな球種があるのに打たれるわけがない。なぜだと思いますか」。記者は直球勝負した。

 プロ球団スカウトの間ではあるウワサがあった。「西舘はクセがバレている」と。記者も感じていた。今春のリーグ戦。2ストライクからめったに投げない「カーブ」が捕手からサインが出る。スピードと変化量を備える一級品のはずなのに、なぜか空振りが取れず「ファウル」になることが多かった。その度に記者は首をひねった。

 ここからは一方的意見になる。それでも記者は合点がいった。西舘は言う。「フォームにクセがあった思います。見抜かれていた部分があったので、もう一回見直していきたいと思います」。こん身の直球や意表を突いた変化球がフルスイングされる。思い返せば兆候はあった。マネジャー、データ班と映像を見直すと、確かに「クセ」はあった。

 「時既に遅し」と捉えるか、否か。西舘は後者だった。「周囲のレベルも上がっているということです。自分はもっと一段階、二段階と上を目指していきたいと思います」。この合宿では大商大・上田大河(4年)にフォークボールのアドバイスを受けるなどさらなる成長を目指している。
 
 記者の定石では、ここで上手いこと言って締めるのだが、今回は「西舘の秋に注目」とだけ言って、この記事を終わりにしたい。(記者コラム・柳内 遼平)

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